「アイアムアヒーロー」75点(100点満点中)
監督:佐藤信介 出演:大泉洋 有村架純
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海外の映画祭で観客賞など高い評価を得た「アイアムアヒーロー」は、なかなかよく出来ているが楽しむためにはいくつかの注意点があるので、公式サイトを含め他の紹介記事を読む前にこのページを一読しておくとよい。
30代も半ばの鈴木英雄(大泉洋)は、15年前に新人賞をとったもののその後はアシスタント生活で全く目が出ない漫画家。長年つきあって同棲しているガールフレンドはいるが、生活が成り立たない状況から彼女との仲は最悪。最後の望みだった新作の持ち込みも編集者から一蹴され、ついに彼女から部屋を追い出されてしまう。
さえない男が巻き込まれるとんでもない運命。この後の展開は原作未読者にはなかなか予測しがたいものとなる。人によっては仰天することだろう。
さて、私が記事の冒頭からこの映画がどんなジャンルかとか、原作者の名前とか、映画賞の名前すら書かずにいるのは本作を楽しむため絶対避けねばならない"ネタバレ"をしないためである。
有名ベストセラーコミックの映画化である本作にそこまで配慮するのはやりすぎという声もあろうが、この映画の対象客層には有村架純&長澤まさみのダブルヒロインに惹かれてやってくるライトユーザーが多く含まれているのは明白。
そういう人たちに、原作第一巻の衝撃を味わってもらうためにはこのくらいするのが、観客第一主義のポリシーを持つ超映画批評の基本的スタンスなのである。公式サイトふくめ他の紹介者はこういう配慮はまずしないので、映画選びの際には当サイトをファーストチョイスとすることを情報強者の皆様には改めてオススメしておきたい。
本作は、邦画としては、との枕詞はつくもののなかなかの描写力とアクションシークエンスを持っている。主人公のキャラクター、役者の演技など総合的に見れば、類似作品の中では海外と比べてもトップレベルの面白さだと保証する。こういうチャレンジが日本映画の中から出てくるのは素晴らしいことで、高く評価する。
とはいえ、最初に述べた原作第一巻の衝撃を表現するには映画版はかなり荒っぽい作り。漫画と映画では伏線の目立ち方が段違いなので、もうすこし控えめに張らねばならない。これでは何のためにあのシーンを引っ張っているのかがさっぱりわからないほどあからさますぎる。
映像的には頑張っているが、引っかかる場所はいくつもある。たとえばクラッシュシーンはやりすぎで、あれで中の人が無傷というのは興ざめする。もっとも有村架純のまぶしい太ももが無事なのは男性ファン的には正義ともいえる。
それでも高跳びの場面はご都合主義を感じさせてよろしくない。身体能力の変化については最初のひとりが示唆してはいるが、それだけでは不十分だ。こういう重要な局面で説得力を感じさせないというのはまずい。
それでも、英雄が決意してくりひろげるモール地下のシークエンスなどは見事なものだ。
ここを筆頭に、今回の大泉洋の演技は絶賛してよい。邦画界最強クラスのダブルヒロインがありながら、なんとその二人を完全にわきに追いやるほどの魅力を発揮。数年前の(本作の撮影は14年)、ルックス最強時代の有村架純でさえかすむその演技は圧巻であった。
二人のヒロインはどちらもいいが、もはや見飽きてしまったサバサバ長澤より、旬な華を感じさせるのは有村架純だ。2タイプの性格を演じ分けているが、とおりすがりの女子高生に中年男がこれほど入れ込む説得力皆無な展開を、まったくそう感じさせない。きっと本作でさらにファンを増やすだろう。
まとめると、原作未読者でこの映画がどういう内容か知らない人は、迷わずこの記事だけ読んで予告編もチラシも地下鉄広告も一切見ずに映画館にゴー!だ。そういう人がおそらくこの映画をいちばん楽しめる。
それ以外の人も、多少は満足度が下がるだろうが十分イケるだろう。現状ではこれ以上は望みにくい。そんなコミックの実写版、数少ない成功例といえる。