「ズートピア」60点(100点満点中)
監督:バイロン・ハワード 声の出演:ジニファー・グッドウィン ジェイソン・ベイトマン
ディズニーの自信を感じる一本
かつてはドリームワークスアニメの得意技だったアンチディズニー的なるものを、今や本家がやっていると私は何年も前に指摘した。それほど自らの築き上げてきた世界観、ポリシーに自信を持ち始めているわけだが、この最新作「ズートピア」もそうした最近のディズニーらしさがよく出た作品である。
あらゆる動物たちが生きられるよう、エリアごとに気候を調整した動物たちの楽園ズートピア。ここでは肉食草食とわず、動物たちが共存している。そしてウサギのジュディは必死に努力し、ついにここで警官になる夢を果たした。そんな新人警官ジュディはキツネの詐欺師ニックと出会い、ひょんなことから一緒にある事件を追いかけることになるが……。
怖いもの知らず&ちょいと世間知らずだからこそ、猪突猛進で夢をかなえてきたジュディ。対照的に、夢も善意も信じず、その見返りに抜群に世渡りがうまくなったニック。この二人が補完しあい、互いによい影響を与えていく。まあ、子供向けアニメとしてはありがちな大筋である。
だがこのディズニーアニメは、そのギャグの多くを子供には理解しにくいタイプで揃えている点が異質である。
たとえばジュディがほんの一瞬止めただけの車に駐車違反切符を張り、持ち主が激怒する場面。あるいは落ち込んでいるときにラジオをつけると、ブリジット・ジョーンズでもおなじみ"All By Myself"など、鬱ソングばかりが流れてくる。こうしたギャグは大人には大爆笑だが、子供にはわかりにくいだろう。
挙句の果てには海賊版を売る悪い動物たちが出てくるなど、ディズニー映画とは思えぬ自虐的なネタまで登場する。ここでネズミが取り締まりに来るくらいのことをやればなお笑えたのだが、それはともかくここまで彼らが平然と対象たる視聴者(子供)を無視したことをやってくるのは、一昔前はありえなかった。
こういうことができる理由は、それでも受け入れられる、楽しんでもらえるとの絶対的な自信があるからである。
たとえばこの映画には、ジュディが列車から初めて見るズートピアの全景など、圧倒的なビジュアルの美しさ、迫力がある。あらゆる季節がエリアごとにわかれている、その雄大なハイテク大自然の発想には仰天するし、絵的にもうっとりさせられる。アニメはしょせん絵なのであり、絵が美しければ美しいほど、それだけで見せ場となる。この映画にはその、簡単そうで難しい圧倒的なクォリティの高さがある。
これが制作陣の自信となり、余裕となっていい影響を表している。前述のギャグの連打などその一例だ。
そして、世界中が戦争に向かっている今のような時代には、草食肉食みなが共存するズートピアの世界観にはどことなく深みを感じさせられる。
いまの世界、とくにアメリカはズートピアどころではない弱肉強食の世界であり、このような共存がありえない格差間の壁が問題となっている。人種、経済格差、性別等々、動物の種の違いどころではないわずかな「差」すら解消できない人間に対する、これは問題提起というわけだ。
もっとも、そうしたテーマ性にしろ、表面上のストーリーにせよ、それほど優れたようにも思えないので結果的にこの映画が歴史に残ることはないだろう。それでもこの程度ならいつでも出せますよというのだから、ディズニーの底力たるや恐ろしいものがある。