「僕だけがいない街」65点(100点満点中)
監督:平川雄一朗 出演:藤原竜也 有村架純
突っ込みだらけだが押しきる役者力
タイムリープものには傑作が多い。それは脚本上の矛盾を何度もチェックし、それがブラッシュアップに繋がるのが要因だが、「僕だけがいない街」はそうした形跡がないにも関わらず、役者の力で面白い映画に仕上がった珍しい例である。
売れない漫画家で、宅配ピザ店でのバイト代で暮らしている藤沼悟(藤原竜也)は、バイクでの宅配中、またいつもの違和感を感じ取る。同じ時間を何度も繰り返す「リバイバル」と彼が呼ぶ現象は、たいていの場合、悟に何かの事件を知らせる働きを持っている。彼は「リバイバル」が知らせる誰かの命の危機を、はたして救うことができるのか。
のっけから引き込まれるし先が気になるし、日本映画としては抜群の面白さを誇る。今年これまでみた漫画の実写化の中では、かなりいい部類にはいる。
しかし、この突っ込みどころの多さはどうだろう。
まず物語の発端となる、主人公がある人物の殺害犯として追われる部分。正確には、このままじゃ自分が犯人だと思われてしまう、と主人公が先走りして自分から逃げ出すわけだがこれはあきらかにおかしい。
いくら混乱していたからといって、なんの負い目もない主人公がそんな思考になるのは不自然だし、その理由づけも弱い。しかも、ここが不十分だと肝心の真相部分もおかしなことになる。
もうひとつ致命的なのは、過去に戻ったとき、とくに終盤、主人公がありえない行動を取ることである。
具体的には、ある人物の車に乗ることだ。この時点で彼のもとには真相を十分見抜けるだけの材料が揃っているのであり、この行動は極めて不自然というほかない。
なにしろ彼は、外見は子供だが中身は大人のまま。名探偵コナン状態なのだから、この行動の危険さを知らないはずがない。どうしてもそういう流れにしたいのなら、「気づいていない」ことに説得力を持たせる演出が必要になる。
かように脚本、というより演出の粗っぽさを感じざるを得ない。
それでも本作が面白いのは、ひとえに役者の力による。藤原竜也の悲壮感溢れる表情はそれだけで強い共感を覚え応援したくなるし、有村架純の純粋な瞳は、彼女の非常識なまでの、無防備と言えるほどの主人公への信頼についてさえ説得力を生じさせる。
この二人が画面に出てくるだけでワクワクする。そういう、往年の映画スターの迫力を醸し出している。大したものだ。
彼らの迫力と遜色がないよう、子供時代を演じる子役たちには相当丁寧な演技指導がなされたと聞く。たしかに、中に藤原竜也が入っているようにしか見えないその演技を見れば、容易に想像ができる。監督も子役も、大変な仕事だったろう。
そんな平川雄一朗監督のリソースが、ストーリー演出面まで行き渡らなかったのが残念だが、それでも光るところが多々ある映画で、見る価値は大いにある。