「アーロと少年」80点(100点満点中)
監督:ピーター・ソーン

泣ける恐竜ファンタジー

ピクサー最新作「アーロと少年」は、「今回は映像で見せますよ」と宣言するがごとく、まるで実写のようなすさまじいクオリティの水面ショットからはじまる。

6500万年前、生物を滅ぼすはずだった隕石が逸れたもうひとつの地球。首長竜のアーロは体が小さく、兄弟たちの中で劣等感を感じていた。最近、一家の食糧庫を荒らす謎の小さい生き物がおり、アーロはその捕獲を狙っていたが失敗する。逃げ出したその奇妙な生き物を追いかけるうち、アーロと父親の身に悲劇が起きる。

映像派宣言をしたとおり、この映画のクライマックスには一切の台詞がない。そして、それが強烈な涙腺刺激効果を生み出し、観客席のほとんどが落涙確実な出来となっている。まったくもって大した自信だし、実力である。これが子供映画というのだからハリウッドのレベルは圧倒的である。

ピクサーアニメらしく、いろいろと計算された綿密な作りになっているが、その最たるものは最初に隕石が落ちないオープニングを見せることで、脚本面も演出面もある種のフリーハンドを得ている点。恐竜映画はマニアな子供たちも多く、いいかげんな考証がしにくいジャンルだが、この映画はのっけからファンタジーだよとぶっちゃけているので、いろいろと遊ぶことができる。アーロの一家の農耕作業など笑えるし、スケールがでかいし、そして重要な伏線にもなっていたりする。

大筋のドラマとしては、「ヒックとドラゴン」のように異種間の因縁ある二人が徐々に近づいていくというもの。恐竜が少年を許す描写がないのは、実際のところ悲劇の原因が自分自身にあるからなのだが、あちらとちがって本作はそれすらも言及しない。ややこしいし、不要と判断したのだろう。それならそれでいいが、少々モヤモヤと軽薄さが残る。

また、終盤にある種族の一家がでてくるが、少年の選択はどう考えても必然性が薄い。少年を、あんなにたくましく描いてしまったがために、ここだけおかしなことになっている。せめて話のどこかでアーロとの間では補完しきれぬ限界をしっかり見せておかないといけなかった。現状では、単に泣かせるためだけのお涙ちょうだいに過ぎず、ピクサー脚本にしては緻密さが感じられない。

相変わらず良くできてはいるのだが、そんなわけでピクサー作品の中では平均よりやや上程度と言えるだろう。



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