「インサイダーズ/内部者たち」65点(100点満点中)
監督:ウ・ミンホ 出演:イ・ビョンホン チョ・スンウ

韓国人大喝采

イ・ビョンホンとチョ・スンウ、崖っぷちとまでは言わないが下降ぎみだった二人の評価を再浮上させた韓国歴代ナンバーワンヒット映画「インサイダーズ/内部者たち」は、なるほどなかなか見ごたえのある社会派ドラマである。

大手自動車会社の会長(キム・ホンパ)は、与党の大統領候補チャン・ピル(イ・ギョンヨン)にカネを流し、政界への影響力を決定的にしようとたくらんでいた。黒幕として、その仲立ちをしていた大手新聞、祖国日報主幹のイ・ガンヒ(ペク・ユンシク)は、汚れ仕事を任せていたゴロツキのアン・サング(イ・ビョンホン)に裏金ファイルの回収を命じるが……。

R18指定作品史上、というくくりにしても史上一位というのはすごい。なによりこうした、決して女性向きではない男臭いドラマにこれだけ客が入るということが、女性&子供向け市場しか存在しない日本人としては羨ましい。

イ・ビョンホンは、劇中のコメディシーンのアイデアを出すなど積極的に本作に関わった。たしかに荒涼たる汚職話のなかで彼のキャラクターは、その暴力性、悪さのわりにはチャーミングで憎めないところがあり面白い。役作りとしては正解だ。

原作のウェブ漫画は未完なので、結末はオリジナルということになるがそのせいだろう、少々終盤だけ浮いている印象を受ける。あまりに痛快すぎて、印象を軽くしている。

もっとも、この高速かつ予想外な転がり方によってほとんどの観客、とくに韓国のお客さんの満足度が上がったのは間違いあるまい。

なにしろこの映画に出てくる汚職構造や性的接待、熱狂的な国民性は現実の韓国社会そのものであり、相当なリアリティを感じられるもの。そんな中で国民が抱く不満やうっぷんを、想定外な形でこの映画ははらしてくれる。広く支持されたというのも頷ける。

実際には、検事の実家で男二人が語り合うシーンの"自分の子供を育てるたとえ話"こそが現実なのだから、こうした希望、というよりほとんど願望落ちになるのも当然か。

屋上ハウスや鍋ラーメンなど、韓国映画ではお馴染みの独自文化もたくさん出てくる。イ・ビョンホンががつがつ食べていると、そんな食い物でもなんだか美味しそうに見えてくるから面白い。私も今夜はインスタントラーメンでも買って、鍋から直接食べるとしよう。



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