「信長協奏曲(のぶながコンツェルト)」55点(100点満点中)
監督:松山博昭 出演:小栗旬 柴咲コウ
そんな大事なモン郵送するな
石井あゆみの漫画をテレビドラマ化した、その映画版である本作は、TVドラマの映画化にありがちな悪い部分がふんだんに出てはいるが、歴史好きならギリギリ許せるレベルに仕上がっている。
戦国時代にタイムスリップし、信長を演じることになってしまった高校生サブロー(小栗旬)。彼は知らず知らずのうちに史実通りの道を歩んでいく。やがて妻・帰蝶(柴咲コウ)との結婚式をどうするかで頭を悩ますサブローだったが、その裏で明智光秀こと本物の信長は、サブローの命を狙い始めていたのだった。
さて、本能寺の変は起きるのか否か、というお話だが、誰が一体何歳の設定で、今が何年なのかさっぱりわからないまま話が進むという、たいへんな力技である。
もともとのアイデアがいいだけに、こうしたおちゃらけたテレビドラマ的なノリでそのまま映画を作ってしまったことがたいへん悔やまれる。あそこをもっとこうすりゃ良くなるのにと、いくつもの改善点が思い浮かぶ。
だが、見終わった後そんな話がしたくなるというのは、傑作ではないものの、そう悪い作品というわけでもないのかもしれない。
部分部分で光るところも多い。たとえば高校生の現代っ子が、この時代に行ってもどこかチャラいまま、というのはユーモラスだし悪くない。そして、ヘビーな時代にとばされて、戦争に身を投じざるを得なくなったあとの成長ぶりを描くのもいい。
結末はこれしかないよねということで予想はつくものの、やはりもう少しあの人物の変化について説得力が必要だと思う。たとえば現代の価値観で何を説得しようが絶対に変わらない、そんな戦国時代の人間ならではの厳然たる現実主義を見せるなどの伏線を置いた上でそうした説得力を生み出せれば、この「変化」というものへの感動も倍増する。
それにしても、突っ込みどころの多さについてはギャグ作品かと思うほどである。小栗旬は足を撃ち抜かれても翌日には完治しているようだし、柴咲コウはいったい何歳であのメッセージを送っているのかと誰もが頭をひねるし、部下の武将たちが助けに来る場面では、史実における彼らの派遣先を知る観客なら確実にどこでもドアの存在を感じざるを得ないだろう。
こういうものを見せられると、いくら合戦シーンにこだわりました、考証頑張りましたと言われても悪い冗談にしか思えないものである。
ということで、まともな歴史イフものを期待することはできないが、お気楽なタイムスリップフィクションだと割り切ってみれば、ドラマ未見の人でも十分に楽しめる。最初にダイジェストがついているのも、親切な配慮であろう。