「珍遊記」60点(100点満点中)
監督:山口雄大 出演:松山ケンイチ 倉科カナ

倉科カナがあんなセリフを……

人気女優、倉科カナがお下劣セリフを連発する「珍遊記」は、山口雄大監督らしいおバカ度たっぷりな不条理劇に仕上がっている。

乱暴者として知られていた山田太郎(松山ケンイチ)は、天竺を目指す玄奘(倉科カナ)に屈服させられその旅に同行することになる。だがその旅路は波乱に満ちており……。

あのきれいな顔をした倉科がつるっぱげ状態で、ちんこだの放屁だのと明瞭な発音で語るたびに、自分はなんてくだらない絵図を見ているのだろうと思わず笑いが漏れそうになる。それでも、そんなばかばかしいものに笑わされることにある種のプライドで抵抗しているところを、山口監督は必死にこじ開けようとする。やがて、じじい(田山涼成)とばばあ(笹野高史)の気持ち悪いラブシーンを見せつけられたあたりで、完全にこちらの我慢は崩壊する。

もっとも、試写室で爆笑しているのは私ほか数名くらいなもので、その他の大多数は静かなものだ。きっと原作未読者なのだろうと思う。

とはいえ、漫☆画太郎によるお濃厚な原作の、少なくとも見てくれの再現についてはこの映画はこだわっていない。このあたり、この原作者の映画化については手慣れた山口雄大監督の判断だろう。もちろんそれは正解で、無理に似せようとするより実写ならではの笑いに合わせた方が無理なく見られる。似せようとしても不可能という話もあるが。

それでも山口監督は、企業イメージ的にまず無理だろうと思われていた呪文の数々を原作のまま採用するなど、かなり勇気ある演出力を見せる。もっとも、見る側としては別にそんなトコにこだわらなくても良かったようにも思うのだが、ここは誉めておくのが義理と言うものだ。

まとめとして、まずこの映画は原作未読者はNG。見た目の再現性にこだわる人もダメだ。その上で、ハゲヅラ倉科カナのエロセリフに価値を見いだせる人や、その他の下ネタが大丈夫な人が、そうしたシーンで一緒に大爆笑できる相手を誘って見に行くべき映画である。そのあたりを間違えさえしなければ、そこそこ楽しむことはできるだろう。



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