「キャロル」90点(100点満点中)
監督:トッド・ヘインズ 原作:パトリシア・ハイスミス 出演:ケイト・ブランシェット ルーニー・マーラ サラ・ポールソン
日本の大女優は見習え
アカデミー賞演技部門の受賞が期待される、ケイト・ブランシェット&ルーニー・マーラの二大演技派女優共演「キャロル」は、日本の大女優さんたちが見たら恥ずかしくなるほどの、迫真の演技を堪能できる傑作恋愛映画である。
1952年のクリスマス、貴婦人然として美しい女性が子供用のプレゼントを選んでいる。夫と離婚調停中で娘との面会もままならないその女性キャロル(ケイト・ブランシェット)は、デパート店員テレーズ(ルーニー・マーラ)に親切にしてもらったのが縁で、友人関係を築いていく。
実績も人気も演技力もあるこの二人ほどの女優が、同性愛をテーマにした映画で堂々と全裸の濡れ場を演じる。CMスポンサーを失いたくない周りが必死で止めるであろう日本の女優界では、まず真似できない芸当である。
見ればわかるが、それを演じたからと言って二人のイメージが下がるとは到底思えないし、スポンサーがいたとしても降りるとは思えない。それほどに二人の演技は素晴らしく、映画の演出も完璧で、そしてなにより美しい。
めくるめくようなほめ言葉で愛するものを慈しみ、思いやる。なにより必然性が感じられるし、そのうえここまでやるかとの意外性でこちらを驚かせてくれる。恋愛ムービーかくあるべしというお手本といえるだろう。あちらの一流女優のこういう凄い気迫を見てしまうと、わが国は色々と成熟が必要だと痛感させられる。
それにしても、同性愛であり不倫でもある二人の恋愛に、なぜ私たちは不快感を感じないのだろうか。彼女たちと、ゲスの極みベッキーとの違いはいったいどこにあるのか。ルーニーさんの底上げ気味の美巨乳のおかげなのか。
否。この関係が不快でないのは決してベッキーよりルーニーさんの胸が大きいからではなく、それよりも二人の関係に身勝手さがない事が大きい。
それは登場時から感じられる洗練されたケイト・ブランシェットのふるまい、言葉の選び方は言うに及ばず、すべての鎧をはぎとられちっぽけな少女のように追い詰められた後の態度からも感じられる。どんなに不利な状況に追い込まれても、彼女は愛に誠実で、自分が大切にする人間関係を守り抜こうとする。そこに観客は共感し、涙するのである。その価値の前には性別の違いだの既婚だのはなんら影響を与えることがない。本物の恋愛関係というものがあるだけだ。そういうものを知る人がこれを見たら、確実に大満足を得られるだろう。
つまるところ、人々の心を動かすにはセンテンススプリングに感謝しているようなレベルではまるで駄目で、簡単にはできないことをしなくてはならない、愛の力で。
もしこの映画が50年代にあったならば、同性愛者への偏見も随分減ったかもしれない。いや、それを言うなら現代も同じことだ。「キャロル」はそういうものに興味がないとか偏見を持つ人にこそすすめたい、まごうかたなき本物の恋愛映画である。ひさびさにうならされる、見応えある一本であった。