「007 スペクター」65点(100点満点中)
監督:サム・メンデス 出演:ダニエル・クレイグ クリストフ・ヴァルツ
スパイ映画の最後の大物
スパイ映画の当たり年といわれる2015年。その大トリとして登場する007シリーズ最新作は、シリーズへの重い入れが強い人とライトユーザーで大きく評価が変わる出来映えとなった。
ボンド(ダニエル・クレイグ)は生家スカイフォールで焼け残った写真を手掛かりに、メキシコ、そしてローマへと渡る。一方、所属組織MI6も組織改編の波にさらされ、消滅の危機に瀕していた。その状況の背後に忍び寄るのは、謎の犯罪組織スペクター。はたしてボンドの自分探しの旅の終着点には何が待ち受けているのだろうか。
本作のメディア上での批評はおおむね良いようである。その理由のひとつは、それらを書いているのが映画の専門家で、シリーズの基礎(以上の)知識を身に着けているから。つまり「007 スペクター」は、007フリークのような層には非常に評判がよい。
ダニエル・クレイグの最終作になるかもしれないといわれてきた本作は、6代目ボンドの自分探しの旅が終着点を迎える話。少なくとも前3作は食い入るようにみておかないと、その良さを堪能しにくいファン向けの作りといえる。
よって、スペクターという言葉になんの郷愁も感じないとか、ボンドの出自に興味がないとか、ガンバレルシークエンスに胸躍ることもないとか、そういう人には積極的にすすめにくい。
むしろ、雪山のチェイスにわくわくし、あのシーンは何作目のオマージュだとか、あの時計バンドはコネリーがしてたやつじゃんとか、細かいところの"気づき"に喜びを感じる人が見てこその傑作評価というわけだ。
むろん、そういうものを取っ払っても、そこそこの間口の広さは持ち合わせているが、十分に堪能するには深みにはまっている人のほうがよいだろう。
期待のアクションは、冒頭のメキシコでのものが一番印象に残る。ただ、これも群衆にしろヘリコプターにしろ「すべてノーCGだよ」と事前に解説をしておかなくては、十分に味わえないのが惜しい。あまりにスゴすぎて、誰もがCGだと思うようなことを実際にやっているわけだ。解説側には、なんとも面倒くさい時代になったものである。
その意味では、ギネスにのるともいわれる映画史上最大の爆発シーンも同じ。スケールがでかすぎて誰も本物の爆発撮影だとは思わないレベルだ。撮影時には、戦争が起きたと勘違いした人々が地平線の向こうからすっ飛んできたとかこないとかいう話だが、いずれにせよあの爆発映像は本物だそうである。
とはいえ映画的には、あの程度の攻撃で全施設が爆発するとか、どんだけもろい設計だよと笑うしかない気もするが……。
ボンドのスーツアクションも非常に格好いいが、オーダーマニアの私などがみると、アップショットでは明らかに立ち姿専用というべきサイジング。しゃがんだ瞬間にやぶけそうなタイトさであり、あんな服でスパイの仕事が務まるかと思わず笑ってしまうほどだ。
アクション用は別サイズで作ってあるのだろうが、それでもおそらくこの映画は何十という単位でトム・フォードをただの布きれにしてしまったことだろう。贅沢な衣装の使い方である。
そんなわけで今回もボンドスーツはアメリカブランドだが、車はちゃんとお約束のアレに回帰しているし、ガジェットもいくつか登場するなど全体的には過去への回帰を印象づける。
とはいえ、そうした工夫も結局は結構なマニアにしか伝わらないわけで、いまから参加したい人にはややハードルが高い。それでもこれだけのお客さんを引っ張ってくるのだから、007というコンテンツも捨てたものではない。