「ヒトラー暗殺、13分の誤算」55点(100点満点中)
2015年/ドイツ/カラー/110分/配給:ギャガ 監督:オリバー・ヒルシュビーゲル 脚本:レオニー=クレア・ブライナースドーファー キャスト:クリスティアン・フリーデル カタリーナ・シュトラー
ドイツも戦後70年
今年は戦後70年だから、ドイツにおいても過去を振り返る戦争映画がたくさん作られている。ドイツであの戦争といえば、ヒトラー映画になるのは当然だが、ことこのネタについて彼らと我々外国人では基礎的な教養に大きな差がある。よって本作も、相当ヒトラーとかナチスというものに詳しい人でないと、十分に理解できない。
39年の11月。恒例のミュンヘンにおけるヒトラーの演説で、爆発物による暗殺未遂事件が起こった。偶然13分間早く切り上げたためヒトラーは難を逃れた。この事件の犯人は、平凡な家具職人のゲオルク・エルザー(クリスティアン・フリーデル)いったいなぜ彼はこんなことをしたのか。その過去がいま明らかになる。
欧州とくにドイツ人の、この問題に興味がある人をターゲットにしている映画なのでとにかく説明が少ない。
たとえば演説中のヒトラーが「飛行機が天候が悪くて飛びません」とメモを見せられるショットがある。これは、次の場所への移動手段が鉄道に変更になったので、早めに演説を終わらせてください、という意味があるわけだが、そこまで一瞬で理解するのは難しいのではないか。この場所が恒例の演説会場だったことも、そこから次まで空路と陸路があることも、多くの日本人にはぴんと来ないだろう。
またこの主人公が、ナチスが戦争に突入する前にヒトラーの危険性をいち早く察知し、暗殺まで決意した最大の謎について、あまりに言及が少ない。ワルキューレ作戦はじめ、ほとんどのヒトラー暗殺未遂は戦争突入後なのだから、考えてみればいち家具職人がそんな大それた決断をするというのは大変なことである。だが、そこをこの映画はフィーチャーしない。
むしろこの点を大きくアピールしておけば、現代の政治情勢に対するリンクポイントにもなるはずであり、面白さと普遍性は格段に上がっただろう。日本人にとっても。
ゲオルクは、明らかに何らかのきな臭さを感じたのである。まだナチスのプロパガンダ映画の上映会に村人がうかれているような時代に。
この映画のテーマにはこの、間違った指導者に私たちはどこで気づけるのか、というものが含まれているが、それこそ現代的な問題といえるはずだ。
終盤である人物が、どうやら別の暗殺計画に参加していたことがわかる場面がある。これこそ有名なワルキューレ作戦のことなのだが、彼はゲオルクの5年遅れでヒトラーの危険性に気づいたという意味がこの場面には含まれている。この男のそれまでの立場、ゲオルクへの態度を思い起こせば、このシーンの皮肉な意味合いが痛いほど伝わってくる。彼の姿こそ「きづけなかった」私たちそのものの象徴だからだ。
だが、ワルキューレ作戦やドレスデン爆撃がどういう意味合いを持つ記号としてここで使われているのか、一瞬でわかるくらい歴史に詳しくないと、そういう演出の意味も分からない。
そうした不親切さが本作の取っつきにくさであり、出来の良さのわりに大勢には伝わらないだろうなと思う残念な部分である。日本人としては、もう少し説明過剰なくらいがありがたいなと改めて思う次第である。