「ドローン・オブ・ウォー」85点(100点満点中)
2014年/アメリカ映画 /シネマスコープ/カラー/104分/字幕翻訳:松浦美奈/ R15+ 配給:ブロードメディア・スタジオ 監督/脚本:アンドリュー・ニコル 製作:ニコラス・シャルティエ キャスト:イーサン・ホーク ブルース・グリーンウッド ゾーイ・クラヴィッツ
アフガニスタンの国鳥
地球の裏側を飛ぶ遠隔操縦の無人機を操縦し、敵を爆撃したパイロットがあることに気づいた。今吹き飛ばした中に、子供がいたように見えたのだ。同僚にチャットでそれを問うと、彼もたぶんそうだという。するとそのチャットに軍の偉い人が割り込んできてこういった。「違う違う、あれは犬だった。心配するな」と……。
ラスベガス郊外に住むイーガン少佐(イーサン・ホーク)は中東で活躍した元F-16のパイロットだが、今では近くの空軍基地に努めている。だが彼は毎日アフガニスタンの上空に「出撃」してタリバンを駆逐している。彼が操るのは無人機=UAV。妻子が待つ家庭と戦場をマイカーで行き来する異様な毎日は、やがて彼の心をむしばんでゆく。
冒頭の実話は映画とは関係ない話だが、この映画のテーマを象徴しているので紹介した。同時に、いわゆるブラック企業で働く普通の人々の心にも刺さる問題ではないだろうか。すなわち、自分のポリシーや思想、やりたいこととは真逆のことを命じられ、こなし続けていると、どんなに屈強な精神を持つものでもつぶれることがあるという問題だ。
それは世界最強のアメリカ軍でも同じ。訓練を積んだ帰還兵が精神を病むのは、戦争という「仕事」に根本的な矛盾、ブラック気質が含まれているからである。「ドローン・オブ・ウォー」は、それをこれ以上ない説得力で伝えてくる、優れた戦争映画である。
しかもこの戦争映画には、爆発音も叫び声も銃声もない。史上もっとも静かな無音の戦争だ。ラスベガスの基地の、コンテナのような操縦ユニットから操られる無人機は、遠く離れたアフガニスタンの空を飛び、監視し、爆撃する。パイロットは命を失うリスクゼロでその仕事を行い、吹き飛ばした人間の肉片をズームカメラで確認して家路につく。
「この仕事でもっとも危ないのは帰りの高速道路だよ」と語り、寄り道したコンビニ店員に「いまさっきタリバンを6人吹き飛ばしてきたよ」と話すとナイスジョークと笑われる。それが彼らの日常である。
このディテールの豊かさは本作の大きな見所である。いままでこんな映画はなかったし、およそ近年の戦争映画でこれほど強い衝撃を与えるものもない。
ドローン戦闘についての有意義な知識をたくさん得られるし、この戦争はこれまでとは全く異なるものだと理解もできる。ドローンはある意味神であり、無敵の兵器だ。下界の人間の命は、いつでも奪うことができる。
だが、その判断をパイロットはしない。誰を殺すかは誰か別の人間が決め、自分は引き金を引くだけだ。そこが通常の戦闘現場とは決定的に異なる。他人の命を奪うという決断を、他人任せにすることがどれほど人の心を破壊するか、この映画は見事に描いている。
こうした特異性と同時に、戦争の普遍的な側面も浮かび上がる。
たとえば軍隊において、戦争中に人間としてまっとうな事をするとどうなるか。その答えはいつの時代も同じだよとこの映画はいっている。だからいかに他国と対立しないですむか、対立したとしても戦争を避けるかが大事になるというわけだ。
世界一戦争をしてきた当時国が語るその葛藤は、まったくもって深刻だし説得力がある。この映画を見て、アメリカみたいな国はほんとうに悲惨だなと感じられる今の日本人は幸せだ。この幸せが、5年後も続いていることを強く願う。