「アメリカン・ドリーマー 理想の代償」60点(100点満点中)
2014年/アメリカ/カラー/125分 配給:ギャガ 監督:J・C・チャンダー キャスト:オスカー・アイザック ジェシカ・チャステイン デビッド・オイェロウォ

こんな時代があったのか

1981年というと多くのアメリカ人は、非常に治安が悪かった年、とのイメージを持つという。NYの地下鉄は落書きだらけ、銃声が聞こえるのも日常茶飯事。そんな乱世はしかし、底辺からのしあがる成功物語が似合うときでもある。

独立系の石油会社を経営する移民のアベル(オスカー・アイザック)は、一か八かの事業拡大のためユダヤ人から将来性ある土地を購入するため頭金に全財産をつぎ込むことを決めた。ところがその途端、会社に災難が降りかかり、銀行融資の雲行きが怪しくなる。ライバル社のような違法行為に手を染めたくない潔癖の価値観を持つアベルは、はたして自分の会社とポリシーを守り切れるのだろうか。

「アメリカン・ドリーマー 理想の代償」は、重苦しい映像がよく似合う不穏な時代に不穏な業界で一発当てようとする男の物語である。

主人公アベルは一見成功者には違いないのだが、多くの経営者もそうであるように、見た目とは裏腹にかなり追い込まれている。

そのピンチからこの男がどう危機に立ち向かうか。そこが見所となるのだが、ユニークなのは、彼がこの時代にはそぐわない、高潔なポリシーを持っていること。

6千ドルのオイルのためにタンクローリー強盗もいとわない、そんな無法地帯であるこの地でアベルは、強盗対策に運転手に銃を持たせることすらしない。暴力に暴力で対峙すればエスカレートするだけだと、国会前のSEALDsのような青臭いことをいう。そんな甘ちゃん精神でこの逆境をきりぬけられるのか?!

それにしても奇妙な物語である。日本人には、この時代のオイル業界が、当たり前のようにとんでもないことばかりやっているのをみて、まず圧倒される。なぜ石油を売っているだけで、銃撃されたり家宅侵入されたりしなければならないのか。こんな脚本リアリティねーよと思いたくなるが、まるで荒唐無稽に見えないのだから恐ろしい話だ。

聖書に記された、人類最初の犯罪被害者の名前を持つ主人公の奮闘と妥協が描かれるが、肝心のアベルの思想的、宗教的背景がぼかされているから先読みしにくく、かつ不気味な余韻を残す。変わっているが、一見の価値あるアメリカウォッチもの、である。



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