「アントマン」75点(100点満点中)
監督:ペイトン・リード 出演:ポール・ラッド マイケル・ダグラス

人間味ある庶民派ヒーロー

悪役の人材不足で質量ともに飽和気味のヒーロー軍団アベンジャーズ。このままじゃいかんと感じているのは観客もディズニー側も同じということで、ここ最近はかなり異色のヒーローものを打ち出している。「アントマン」もその一つで、アベンジャーズの世界観の中に存在しながら、その他のマッチョヒーローたちとは正反対の特徴を持つ。

人生に行き詰っていたスコット・ラング(ポール・ラッド)は、とうとう別れた妻のもとで暮らす愛娘の養育費すら工面できない状況に陥っていた。そんなとき、彼のもとにハンク・ピム博士(マイケル・ダグラス)から魅力的な仕事の話が入る。

この仕事というのが、なんと身長1.5cmにちぢむことができる特殊な全身スーツを着てある場所に行ってくれというもの。侵入を得意とするスコットにとっては朝飯前のものだが、そううまい話があるわけがない。

大方の予想通りスコットはこの金持ち博士に利用され、ほとんど捨て駒となること覚悟で雇われることになる。

ところが「アントマン」の面白いところは、スコット自身もそれを百も承知で引き受けるという所である。なにしろ自分は犯罪者にまで落ちぶれ、人生上がり目が期待できない身。だが娘のためにカネを稼がなくてはならない。それに、何かを成し遂げて、娘に自分に対する誇りを持ってもらいたい。だから、死ぬかもしれない、使い捨てかもしれないとわかっていて彼は引き受けるのである。今の自分には、そのくらいのリスクをとらねばいい仕事などまいこまない。そういう正確な自己認識、謙虚さを持っているのである。

と同時にそんな博士に対しても、娘を愛し、心配する男同士として認め理解しあうわけで、ここは大きな感情的見せ場といえる。博士の娘にはそんな彼らの関係が理解できない、そこがまたいい。

それにしてもこれは、アベンジャーズの他のヒーローと比べてかなり異色といえる「ヒーローになる動機」である。と同時に、世界を守るため、なんて偽善じみたことをいってる連中よりははるかに身近で共感できる、説得力を持つものである。そういうことがわかっている大人が見た場合、類似のヒーロー映画の中ではアントマンがいちばんリアルでおもしろいと感じることだろう。

とくにスコット同様に、娘や息子を持ち、かつまだ自分自身も枯れていない、血の気が残っているお父さんにとっては熱い映画である。小学低学年くらいの子にとっては前半の理論解説部分などが難解でちょっと退屈するだろうが、そういうお父さんはむしろ子供よりも夢中になれるだろう。

その助けになっているのが秀逸なギャグセンス。庶民派アントマンはアイアンマンのように自動着脱するスーツもなく、自分でモタモタと着替えなくてはならないし、サイズが小さいから助手はなんとアリさんだ。

角砂糖をモタコラ運ぶアリたちのかわいらしいシーンで笑いを誘い共感させつつ、怒涛の感動クライマックスへ持っていくペイトン・リード監督の筋運びは、まさにハリウッドムービーの王道。文法通りのお涙ちょうだいといえる。

アベンジャーズのあの人との格闘シーンのおまけもついているが、「アントマン」を見るとまったくもって他のヒーローが薄っぺらく見える。人間味が描けていると、こうも映画は面白くなるという見本だ。

まとめると、「アントマン」のいいところは笑いがたくさんあり、人間が描けていること。逆にいまいちな部分はあちらへ行ってしまう終盤の展開が伏線&説明不足で無理を感じさせる点。そして、小さすぎて近接戦闘に面白みがない点だ。もっとも最後の点は、小さいならではの見せ場がたくさんあるので相殺されて余りある。

エンドロールの途中と後にはオマケがあるので、最後まで席を立たぬよう。小学6年生くらいから楽しめると思うので、親子でぜひどうぞ。



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