「ピエロがお前を嘲笑う」65点(100点満点中)
監督・脚本:バラン・ボー・オダー 脚本:ヤンチェ・フリーセ 出演:トム・シリング エリアス・ムバレク
みんな騙される……けど
びっくり仰天な結末を楽しむ映画を、マインドファック・ムービーというらしい。ティーンエイジャーのカップルや、あるいは本作ならオタク仲間同士がお菓子でも食べながら鑑賞して、あとであれこれいいあって遊ぶ。そんな楽しみ方に適した映画といえるだろう。
警察に出頭してきた凄腕クラッカーのベンヤミン(トム・シリング)は、これまでハッカー集団「CLAY」と起こした悪行の数々を告白し始める。彼が言うにはトラブルから殺人事件に発展し、今は自分が狙われているという。はたしてその衝撃の犯行記録と真相とは?!
ソニー・ピクチャーズが被害にあっていろいろヤバい資料が流出したり、iCloudにヌードセルフィーをあげていたハリウッド女優たちが軒並みパスワードを抜かれたり。ハッカーとは古くて新しいテーマといえる。
この映画の主人公もそのひとりだが、彼がインターネットで交流するハッカーたちのコミュニティが不気味かつユニークでいい。
ダークネットなんて字幕がついていたが、そこで彼らはハッキングの成果や技術を競いあい、彼らなりの競争にせいをだす。必ずしもクラッキングの相手に被害を与えたいとか、世直しをしたいという動機があるわけではない。どちらかというと、仲間内の尊敬を集めたいだけであり、皆どこか子供っぽい。
こういうアングラコミュニティは、少なくとも今のインターネット上ではあまり見かけない。ダークネットのどこかレトロなネット黎明期を思わせる演出は、こういう題材が好きな人にはわくわくさせられるものがあるだろう。
さて、肝心のどんでん返しや結末だが、日本映画ではおなじみの○○系。ちょいと禁じ手という気もするが、たしかに騙され感は味わえる。
とはいえ、その見せ方はうまいほうではない。これだけの大トリックなら、もう少し上手にやれば観客をイスから飛び上がらせることもできたはず。ちょっと欲がないね、との印象を受ける。
個人的におもしろかったのは、ソーシャルハッキングの手段として、ある画像を見せてウィルスを踏ませるテクニック。
もしこれが、エロ画像でイージス艦の秘密まで漏れる日本ならば、ジェニファー・ローレンスのセルフィーということになるのだろうが、なるほどこちらのほうがはるかに説得力がある。細かいところだが、そういう積み重ねが、映画を良くしてくれる。この映画の監督バラン・ボー・オダーは、そうした心配りができる人だったようだ。