「キングスマン」85点(100点満点中)
監督・脚本:マシュー・ヴォーン 脚本:ジェーン・ゴールドマン 出演:コリン・ファース マイケル・ケイン

中年世代向けスパイ映画

イーサン・ハントとジェームズ・ボンド両横綱が揃い踏みの2015年に、両者の間に割り込む形で入ってきた「キングスマン」は、しかし巨頭をたたき落とす勢いの傑作スパイ映画だった。

サヴィル・ロウのテーラー「キングスマン」をアジトとする超国家的スパイ組織のハリー(コリン・ファース)。彼は組織の欠員を埋めるため、素質ある不良少年エグジー(タロン・エガートン)をスカウトする。

個性的なヒーロー映画『キック・アス』で知られるマシュー・ヴォーン監督らしく、のっけからこのジャンルへの思いこみを利用した強烈なミスリードで観客を仰天させる。そのショックから立ち直らないうちに一気に物語に引き込む鮮やかなストーリーの立ち上げである。

続けて高機能な防弾傘など、リアル志向に変化した007シリーズの裏をかく夢のあるガジェットの数々で楽しませる。

かと思うと、サヴィル・ロウのテーラーが舞台というブリティッシュ風味でオジサンファンの心を鷲掴み。まるで「ちょろいぜ」といわんばかりだ。

しかし、そのまま懐古趣味にとどまらず、教会における一大アクションでは過去のあらゆるスパイ映画も上回るような激しい格闘スタントを強烈な映像エフェクトで見せる。オープニングで見せた定石はずしの緊張感を、ここでも決してゆるめることはない。

オチについても見事なもので、痛快にしてビターなこの監督の作風を十分に味わえる逸品。敵も味方もよく考えたら同じ行動原理で動いていることがわかる皮肉めいたメッセージも説得力がある。

なお個人的には、ナンパ課題をこなそうとするクラブのシーンがツボであった。オピニオン・オープナーにネグと、よもやスパイ映画で"専門用語"が続出するとは思わなかったが、ここは相当笑わせていただいた。六本木の試写会では誰も笑っていなかったが、アメリカではこんなのもウケるのだろうか。このギャグシーンを理解できるあんな女子ばかりになったら、間違いなく333バーは廃業だ。

スーツにメガネにナンパと、ちょいワルなオジサンに刺さる要素満載の「キングスマン」。格闘アクションの本気っぷりと読めない展開。トム・クルーズにもダニエル・クレイグにも飽き飽きしている方には、相当高い満足感を与えてくれると保証する。



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