「パージ」55点(100点満点中)
監督:ジェームズ・デモナコ 出演:イーサン・ホーク レナ・ヘディ
ややアイデアに負けているが
「パージ」は55点と微妙な点数だが、このあと来月公開される続編の出来がすこぶる良いため、できれば皆さんに見てほしい。そんな映画である。
一年に一夜、12時間だけあらゆる犯罪行為が合法となる日を定めた「パージ法」が施行されたアメリカ。やがて治安は劇的によくなり、日常の暴力行為はゼロとなった。いまでは国民の多くがパージ法を支持して受け入れている。そして今夜、パージの日。一家の良き父ジェームズ・サンディン(イーサン・ホーク)は、防犯システムを導入したばかりの自宅で家族そろい、安心の夜を過ごすつもりだったが……。
さて、パージが始まるといろいろなことがわかってくる。その最たるものは、どうやらパージの特権を悪用して、殺人を楽しんでいる輩がいるらしいことだ。そして運命の時はやってくる。そんなキチガイ集団に追われた傷だらけの黒人が、家の前に現れたのだ。
さて、彼を救って家に入れるべきか、それとも見捨てるべきか。
本来、パージの夜とは無関係な善良な市民一家が、よもやこんな形で巻き込まれるとは。結局暴力とは、いかにパージ後の安全なアメリカであっても天災のように降りかかってくるものなのだということである。
いいことをしたから助かる、報われるわけではない。それもまた現実だが、はたしてこの理不尽な暴力に巻き込まれた一家のサバイバル劇はどんな結末を迎えるのか。
不満なのは、せっかくのアイデアを生かした点があまり見られないところ。キチガイが襲ってくるだけでは、ゾンビ映画と大差がない。
パージが社会にどう影響を与え、どういう変化をもたらした結果このような新アメリカになったのか。そこらへんの言及が皆無なのも物足りない。
大体こんなことをしても本当の巨悪や富裕層は一夜だけ海外に逃げるだけだろうし、世直しなんて無理ではないのか。むしろ格差が広がるだけではないのか。そんな疑問にも答えてくれない。
もっとも、こうした不満のいくつかは続編で解消されるので、あまり気にせずサバイバルホラーを楽しむくらいのつもりで行くのがよろしい。
それにしても「ハンガー・ゲーム」にしろ本作にしろ、アメリカ人は殺し合いの映画が大好きである。よほどストレスがたまっているのかと心配になるが、何かの間違いでパージ法案を可決するのだけはよしてもらいたい。