「奇跡の2000マイル」60点(100点満点中)
監督:ジョン・カラン 出演:ミア・ワシコウスカ アダム・ドライバー
究極の「自分探し」
「どこにもアタシの居場所がない気がする……」と悲劇のヒロインを気取って自分探しの旅に出る。そんな若いムスメの話ときけば、何を甘ったれたことを言ってんだ、そんなことより働け! と一喝したくなる。
その手の「オンナノコの自分探し」モノにはウンザリだというそうした男性たちも、『奇跡の2000マイル』にはぶったまげるはずだ。
24歳のロビン・デヴィッドソン(ミア・ワシコウスカ)は、母国オーストラリアの自然やアポリジニの文化に興味があったこと、そして何より都市での生活に疎外感を感じていたことから町を離れる決心をする。持ち金6ドルで中部の町アリススプリングスに到着した彼女は、手近な店に飛び込んでこう言う。「仕事はない?」
ロビン・デヴィッドソン本人のベストセラー手記をもとにした実話映画で、実際に彼女が75年に行った一人旅を再現したロードムービー。
この時ロビンは仕事どころか家も食料も、テントすらなかったわけだが、決して後ろを振り返らぬ猪突猛進な行動力で現地民に溶け込み、来るべき「旅」の準備を始める。
旅といったって旅行なんて気楽なモノじゃない。なにしろロビンは単身、ここから広大な砂漠を徒歩で横断し、西の海を目指そうというのだ。ちなみにその距離2700キロメートル。日本でいえば北海道から沖縄くらいはある。
その道程のほとんどが道なき砂漠というのだから常軌を逸している。自分探しどころか、自分が救助隊に探されるハメになるのは目に見えている。
ともあれ、まずはラクダが必要ということで、まずは野生の個体を調教する方法を学ぶべく、彼女はラクダの観光牧場に雑用係としてもぐりこむ。
しかしながら給料はゼロ、住みかは屋外の樹の下で寝袋生活。労働基準法違反どころかどう考えても奴隷以下の扱いだが、ロビンはへこたれない。結局2年間も馬車馬のように働きラクダを手に入れ、ついに彼女は砂漠横断に出発する。
この旅の様子は実際に豪州の砂漠でロケを行い、いまどき珍しいフィルムカメラで撮影された。前半はロビンのスポンサーでもあるナショナル・ジオグラフィック誌のカメラマンがちょくちょく合流するお気楽風味だが、砂漠生活が2か月を超えるころから大自然の過酷さに彼女も観客も顔面蒼白となってゆく。
ロビン役ミア・ワシコウスカは『アリス・イン・ワンダーランド』で不思議の国のアリスを演じた美少女だが、砂漠で風呂も入れず髪はすぐにボサボサ。服も砂だらけでやがてすり切れ、首筋には垢がたまり、まだらに黒くなってゆく。もともとが美人だけに、そのショッキングな外見の変化が環境の苛烈さを実感させる。
やっと見つけた水場へ思わず全裸になって飛び込む場面を見ても、スケベ心以前に生死をかけた緊張がとけた開放感の方に喜びを感じてしまう、そのくらい没頭できる映画だ。
さすがにここまでやれば「自分探しの旅」も圧巻で、ただただ頭が下がるのみ。ズタボロになった美少女が最後に見つけるのはどんな風景か。すがすがしい感動を味わってみたい。