「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」35点(100点満点中)
監督:ジョス・ウェドン 出演:ロバート・ダウニー・Jr クリス・ヘムズワース

マッチョと巨乳の無能集団

マーベル・シネマティック・ユニバースのシリーズは世界中で絶好調で、ヒーロー総登場の「アベンジャーズ」(12年)の続編である本作などは米国歴代5位のメガヒット中。だが、そうした好景気に気がゆるんだか、作品の出来映えは極端に悪化している。

アイアンマンことトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)は人類を守るための人工知能ウルトロンを完成させる。だがウルトロンは暴走し、人類を地球の敵だと認識して攻撃を始めるのだった。

「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」を見ていると、ヒーロー軍団のあまりの無能ぶりにうんざりするはずだ。

そもそも自分たちが作り出した人工知能が暴走し、地球をぶちこわすような大破壊戦闘を繰り広げながら、どの口で「人類を守る」などと言うのか。悲劇の英雄気分に悦に入っている場合じゃない、お前がまずやることは焼き土下座である。

だいたい、そもそもの原因はおまえたちであって、巻き込まれる庶民はたまったものではない。これじゃウルトロン(暴走した人工知能)でなくとも「元凶はアベンジャーズ」と言いたくなる。こちらの方がよほど的確な判断をしているのではないか。

相変わらず我が強くてチームがまとまらず、ぐずぐずしながらも、それでも最後は力を合わせてエイエイオー! ともりあがっているのを見ていると、おまえらいったい何と戦ってんだと空しくなってくる。いっそおまえたちがいない方が平和なんじゃないか、そんな風にすら思えてくる。

なるほど、ハリウッド映画のヒーローはアメリカ合衆国の比喩というのが定番だが、これもそうだとするならば、なかなか自虐的で過激なメッセージである。

とまあ、概論としてはそんなところだが、個別のキャラクターを見てもこれがひどい。

とくにひどいのがリーダーのキャプテン・アメリカで、はっきりいってこいつはリーダーとしては一番不適切だ。なにしろチーム一のねぼすけだけあって、全く成長が見られない。

一番首をひねるのが、いったいなぜこの星条旗コスプレイヤーは、これほどの人材を能力によって適切な職場へ割り振らないのかという点である。

スティーブ・ロジャースの生きていた時代には適材適所という言葉がなかったのか、このリーダーときたらホークアイだのブラック・ウィドウを毎回攻撃の最前線にたてている。一番弱い生身の人間を前面に出してどうするのか。彼らは「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の血液袋か。

やがて仕事が始まると、あとはみなさん勝手に戦ってございとばかりの、毎度おなじみバトルロワイヤル戦法一本やり。

せめて制空権はアイアンマン、遠距離狙撃はホークアイ、ハルクはにぎやかし、ってな具合に役割分担と連携をさせてはどうなのか。

これだけ戦力を生かさない、戦略も戦術もない脳味噌筋肉集団が、団結団結言っているんだからずっこける。おまえら団結なんていったって、いつも身勝手に戦ってるだけじゃねーかと、誰もがつっこむ瞬間である。

そんな団結軍団が、たとえばキャプテンのヴィブラニウムの盾をみんなで蹴飛ばして敵に当てるなどしているが、そういうのは連携プレーとは言わない。敵が開口一番「サーカス団がきたぞ」というが、あまりに的確な表現すぎて爆笑した。この映画は自虐コメディーか。

かように無能な身勝手集団であるが、それでもただの一人も一般ピープルが死なないのだからまた笑える。神がかったタイミングで人々は飛んでくる車を避け、崩れる建物から脱出する。それを見ていると、こんな強運な連中、守る必要ないだろ放っておけと思えてしまう。

結局、アベンジャーズがいようがいまいが人は死なない。ヒーロー軍団よりディズニー社の暴力描写許認可社内基準のほうがはるかに強いということでしかない。

まさに空しい正義、むなしい戦い。一人オナニー戦争というほかない。

映画として致命的なのは、絵的にも面白味に欠けるという点だ。コピペのブリキがとびまわる戦闘シーンは、君たちそれ前作でさんざんやったでしょうと誰もが思う平凡さ。300億円も製作費をかけて、ほかにアイデアは浮かばないのと言いたくなる。

女キャラはこれ見よがしに谷間を見せつけ、男キャラは上腕三頭筋のカットを誇示する。女たちは戦いの前に寄せ上げブラを必死に装着して、男たちはパンプアップのためのプッシュアップを50レップスほどはやっているはずだ。巨乳とマッチョが世界を救う。ばかばかしくて見ていられない。

もっとも、そんな大味なところもアメリカンでいいやと思えればいいわけだが、なにしろ傑作の誉れ高い前作のせいで期待値があがっている熱心なファンには厳しいところ。逆にそうでない、ヨハンソンさんやオルセン末娘をのほほんと眺めていれば楽しめるライトな中年ファンには、ハリウッドの本気映像を気軽に見ていられるとの側面があることは否定しない。

最初からマーベル・シネマティック・ユニバースを追いかけている身としては、次回作はしっかり盛り返してほしいところだが。



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