「コングレス未来学会議」55点(100点満点中)
監督:アリ・フォルマン 出演:ロビン・ライト ハーヴェイ・カイテル
後半は超難解
俳優の全身をスキャンし、その後はデジタル俳優としてスタジオ側がその権利を所有する──そんな恐 るべき設定のSF映画「コングレス未来学会議」は、しかしそのとっつきやすさと裏腹に、きわめて解釈 困難でシュールな難解映画である。
2014年、40代も半ばで女優としてすでにピークを越えたロビン・ライト(本人)。難病の子供たちを抱 えた彼女に映画会社側はある提案をする。それは、今後演技をやめる代わりに、そのデジタルデータを 大金で買い取るというのだ。
キアヌ・リーブスなんて真っ先にやったぞ、お前も早くやれ、とけしかける序盤はブラックな笑いの連 続。とくにロビン・ライトを、実名でけなしまくる叱責シーンがすごい。演技や容姿の衰えだけじゃな い、私生活まで完全にダメ出しをするその毒舌ぶりには、見ているこちらがハラハラする。
子供の難病設定などをみれば、これは明らかにフィクションなのだが、なにしろ実名だから虚実の境目 があいまいに感じられる。ショーン・ペンのDVで(現実の)結婚生活が破たんしたといわれている彼女 に、「選ぶ男も全部だめ」などというのは、ほとんどパワハラである。このあたりは、アメリカのショ ウビズに多少なりとも詳しい人が見たら相当スリリングに感じられよう。 この とはいえ、本作がそんな普通の映画(いや十分普通じゃないかもしれないが)でいられるのは前半だけ。
ある瞬間から画面は突然アニメーションに代わり、いよいよ本題の超難解ナンセンスストーリー「コン グレス未来学会議」が開始される。
ここから先をどう解釈するかが本作の最大の見どころとなるわけだが、9割以上の人はお手上げ、途中 で映画館を出たくなるに違いない。それでも俺は挑戦するぜ、という人だけ映画館に行くとよい。
せっかくなのでそのヒントというか謎解きの端緒になりそうなことを書いておく。
お前はもう落ち目だと仕事相手に罵倒され、追い詰められたロビンがその反論の最後のよりどころとし て何度も出てくるのが「選択の自由」という言葉。どうやらこれがカギとなりそうだ。
さて、そこで後半のドラッグムービー的アニメーション世界を考えてみると、なるほどこの世界こそま さにロビンが至上のものとたたえた「選択の自由」をつきつめた世界そのものである。と同時に、現代 ハリウッドが目指す「疑似体験」というものの究極、言い換えればなれの果てがこの世界でもあるだろ う。
となれば、ハリウッドのそうした商業主義、大衆主義に抗うロビン一家、とくにロビン本人がよりどこ ろとした考えと、ハリウッドの目指した方向が一つに収束しているこの世界は、これ以上ない皮肉めい たものといえる。
そんな中、一家でゆいいつ、息子だけは選択の「不自由」な世界にとどまろうとしたが、果たして彼は その後どうなるか。
「最悪の選択」ばかりをしてきたロビンは、映画の中でもどうやらそれを繰り返す。そして彼女と家族 の選択、そして運命はどうなるのか。
そのあたりに注目して考えてみると、この世界の正体、監督が何を言わんとするかに近づけるのではな いか。あるいは近づけないかもしれないが、それもまた映画の楽しみ方のひとつである。幸運を。