「私の少女」65点(100点満点中)
監督:チョン・ジュリ 出演:ペ・ドゥナ キム・セロン
素の韓国が味わえる
韓国という国は対外的な宣伝活動に国家をあげて取り組んでいる。政府が映画業界に金をつぎ込んでいるのもその一環であるとされている。だから、素朴な韓流ファンがそうした映画作品やドラマを見てイメージする韓国と、実際のギャップがきわめて大きい。とくに、独特の差別問題などは、深く関わってみないと理解しにくい問題だ。
その点「私の少女」は、もともと外国向けにマーケティングされた商業作品ではないために、私たちの知らない、素の韓国が味わえる貴重な一品といえる。
ソウルから左遷されてきた派出所長ヨンナム(ぺ・ドゥナ)は、血のつながっていない義父と暮らす少女ドヒ(キム・セロン)が虐待されているのではと気づく。排他的な村社会独特のルールに苦労しつつ、なんとか彼女を救おうとするヨンナムだが、彼女は意外な方向から迫害を受けることになるのだった。
イ・チャンドン製作&ぺ・ドゥナ主演のビッグネームがあるから幸いにして日本でも見られるわけだが、本来これはひっそりと韓国内だけで公開されるような内容の映画である。
新鋭チョン・ジュリ監督は、おそらくこの映画を社会派ドラマにしようとの意図があったわけではないだろう。同じ女性として、女性が逆境から立ち直る姿を描きたかっただけではないかと私は想像する。
ところが、その女性問題一つとってみても、女性というだけでいかに不利な扱いを受けるかといった、韓国独特の異様な側面に驚かされる。
結果的に本作は、緊張感あるスリラーであると同時に日本人にとっては韓国社会の、おそらく彼ら自身はあまり知られたくないであろう差別的なダークサイドを端的に描いた社会派ドラマとなってしまった。
それを理解するため注目すべきは、ヒロインが交流する少女ドヒと同居しているヨンハには、親子ながら血のつながりがないとの設定である。
血縁重視社会である韓国において、この二人にそれがないことは致命的な欠陥である。だからこそドヒへの虐待が、どこか黙認されているような不気味な設定が成り立つのである。
このことは、この村にいる外国人労働者への冷たい扱いや、結果的に血縁社会の枠組みではくくれないヒロインへの同様の冷たい態度にもつながっている。本作で最も重要なポイントである。
この点が皮膚感覚として理解できないと、見た目は日本とそっくりな先進国なのに、なんでこの国は異様に遅れた人権感覚を持っているのだろうと、ひたすら戸惑ってしまうだろう。
とはいえ、それもまた貴重な映画体験。海外向けにアレンジされた韓流エンタテイメント、あるいはドラマでは味わえないものである。
それに、なによりこうした閉塞感にたいして若い女性監督が問題提起する点に希望がもてる。もとより激しい批判は受け入れられない国だから(批判者が迫害されかねない)、ソフトだがこのくらいの物言いが限度なのかとも想像できる。
それにしてもぺ・ドゥナは、相変わらず役作りのバランス感覚がいい。見る人が見ればすぐにその正体が分かるくらいに見た目を変えている。また、脱ぎっぷりのよさも健在で、入浴シーンでは劣化知らずのナチュラルボディを楽しませてくれる。本当にナチュラルかどうかは知らないが。
唯一注意が必要なのは、当サイト以外のほとんどの映画紹介では重大なネタバレをさらしている点。脚本家と監督が1時間も伏せているストーリー上の秘密をよくもまあ、こんなにペラペラと掲載するものだと呆れてしまう。
やはり映画選びには、読者様は神様ですで知られる超映画批評が一番なのだなと、1億2千万の日本国民すべてが痛感する瞬間である。