「グッド・ライ〜いちばん優しい嘘〜」65点(100点満点中)
監督:フィリップ・ファラルドー 出演:リース・ウィザースプーン アーノルド・オーチェン

難民から学ぶ逆転の構造

世の中には難民を第三国に移住させる制度というのがあって、日本でもここ数年で86人のミャンマー難民が移り住んでいるという。

この程度の規模では国民の誰もがそんな制度のことを知らないのは当然だが、かつて米国は3600人ものスーダン難民を移住させたことがある。その史実をヒントに作られたのが「グッド・ライ〜いちばん優しい嘘〜」だ。

マメール(アーノルド・オーチェン)ら3人は、内戦からの壮絶な脱出行と難民収容所での過酷な暮らしを経てアメリカ、カンザスシティにやってきた。彼らの職探しは、職業紹介所の職員キャリー(リース・ウィザースプーン)が担当となるが、彼らは電話の使い方すら知らない。価値観から生活様式まで、あまりにもギャップがある彼らは、はたして米国での暮らしになじめるのだろうか。

フィリップ・ファラルドー監督は、かつて内戦時にスーダンにいたが国連の命令で撤退を余儀なくされた経験があるという。なるほど、その無念と仕事半ばで去った罪悪感が、本作の端々にみられる難民たち、あるいはアフリカへの愛情深い視線に現れているということか。

「グッド・ライ〜いちばん優しい嘘〜」は、ほとんど未開の地であるスーダンの田舎からアメリカにやってきた3人の若者のカルチャーショックコメディーでありながら、その中身たるや真逆というアイロニカルな構造の物語。すなわち、彼らから私たち先進国の国民が学ぶことをさらっと問題提起する作品となっている。

とはいえ、堅苦しいところはない。むろん、この問題は深刻なので茶化すような態度はないが、ごく普通の人たちが3人の奮闘をほほえましく見守り、最後につく「やさしい嘘」にほんのり暖かな気持ちになれる、好感度の高い映画である。

何しろ脚本には1000人もの難民たちへのリサーチ結果が反映されているし、エンドロールであかされるちょっと驚きの仕掛けにもホロリとさせられる。

私たちはこと外国人、とくに途上国の移民や難民を色眼鏡でみてしまいがちだが、そうした意識ではなかなか共存は難しい。そんなことを感じさせる映画である。

それにしても主演のリース・ウィザースプーンはすっかり貫禄が身に付いた。気の毒な難民のため移民局にすごむシーンの格好いいことといったらない。ふくよかな体つきも含め、かつてのキューティーブロンドの印象はほとんどない。

もともと由緒正しきお家柄の娘さんであり、社会派の香りがする映画がよく似合う。今後はこうした作品がさらに増えていくのだろうか。期待を持って見守りたい。



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