「カイト/KITE」20点(100点満点中)
監督:ラルフ・ジマン 出演:インディア・アイズリー サミュエル・L・ジャクソン

デヴィッド・エリス版を見てみたかった

日本でオリジナルビデオアニメなるジャンルがうまれてしばらくの間、作家性の強いユニークな作品がいくつも生まれた。ある時代のポルノ映画界がそうだったように、裸とロリータな女の子をある程度入れておけば、多少とんがった表現や物語を受け入れる土壌がそこにはあった。「カイト/KITE」のオリジナルとなった18禁アニメ「カイト」(98年)もそのひとつで、その質の高さとオリジナリティから海外で高い人気を誇っていたりする。

金融危機で崩壊したこの近未来では、少女を性奴隷として取引していた。サワ(インディア・アイズリー)は、父の親友で刑事のアカイ(サミュエル・L・ジャクソン)に仕込まれた暗殺術で、こうした人身売買組織と日夜戦っていた。そしてサワは娼婦のふりをして、そのボスに近づいていくのだった。

「カイト」の実写版である本作は、しかしオリジナルとはずいぶん異なる内容となった。序盤、エレベーターにおける暗殺シーンはまるでアニメ版のコピーのようでワクワクさせるが、ここで殺される人間の素性からしてまったく違う。

舞台となる国が違うのから仕方ないという声もあろうがそうではない。このシーンでは、暗殺とは無縁な職業の人間がやられることで、日常の領域を死が突如おかすショックを観客に与えている。そうした効果というものを、この実写版の制作陣は理解していない。

こんな人外の地みたいなところで裏社会のワルが殺されたところでなんだというのか。そこには日常を切りさく意外性や恐怖などみじんもない。それこそ埼京線の痴漢くらいありふれた風景にしか見えない。のっけから設定を誤っている。

原作を踏襲した、時間差をもって対象を殺害する爆裂弾にしても、「もうすぐ爆発しまぁす」とでもいいたげなピーピー音を発する演出など無用である。被弾すると、しばらくして唐突に爆裂するからあれはいい演出となっている。そういうキモがわかっていない。

ヒロインがヤク中の女というのもこれじゃない感がある。パンクなルックスもまたしかり。本来、セックスは知っているが愛はまだ知らない、絶妙な年齢設定と少女の透明感が必要なヒロインである。幼さを残してないと、その後の展開に無理が生じる。

ということで、肝心の結末も変更されているわけだが、これまたセンスがないものでがっかりさせられる。

オリジナルのラストは、ああいうヒロインだから切なさ倍増の、流れがスムースでまとまりのよいものだが、実写版ではオチ変更のためにアカイの行動原理に無理が生じている。いろいろと理にかなっていない。

これをみると、結局のところエロ必須な当時のOVAの制限そのものを、原版はうまく生かしていたなとよくわかる。この実写版はそこを受け継ぐことができなかった。

それもこれも、監督のデヴィッド・エリスが急死し、おそらく原作のキモをよく理解していない監督が引き継いだのが原因である。制作費の少なさも、街中の激しい戦闘が見せ場となるのオリジナルのスケール感を再現できなかった原因であろう。

もともと難しい企画だったが、さらに運にも見放された。実現したこと自体はあっぱれだが、出来映えについては残念な限りである。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.