「エイプリルフールズ」60点(100点満点中)
監督:石川淳一 出演:戸田恵梨香 松坂桃李
脚本重視の企画には好感
最近の日本の映画ファンは見応えある脚本に飢えている。それも当然、これだけ製作・公開本数が多ければ、作る側としてもじっくり脚本を練り上げる時間などそう確保できない。結果、よくできたミステリのように複雑に組み上げられたストーリーが登場する確率はどんどん減っていく。
自他ともに認めるモテ男で外科医の亘(松坂桃李)は、はずみで一度だけ抱いた対人恐怖症のあゆみ(戸田恵梨香)から、突然妊娠を告げられる。今日が4月1日ということもあり、相手にもしなかったところ、なんとあゆみは亘がいるレストランに武装して踏み込んでくるのだった。
実績ある脚本家古沢良太によるオリジナルストーリー「エイプリルフールズ」は、前述のような良質脚本飢餓組にとっては期待の作品である。なにしろいまだに映画ファンの語り草となっている「キサラギ」(07年)以来、古沢良太の手による脚本には佳作が多い。
本作も、大衆向け日本映画としては異例なほど、いろいろ仕掛けられた力作脚本である。いくつもの伏線がラストに向けてつながっていく展開は、好きな人にはたまらない快感をもたらすはずだった。
だが、今回それを味わえるのはせいぜい高校生か大学生程度の若者だけだろう。大人がみると、あちこちに散見されるリアリティのなさが目について没頭できない。
ほほう、あれとこれもつながっていたか、あれとあれも隠れ知り合いだったか、などなど衝撃の事実が明らかになるが、無理やりこねくりまわしてつなげた知恵の輪のオブジェをみせられているようだ。こういう、驚きのための仕掛けの連鎖を心底楽しめるのは、いまだ素朴な感性を持った人だろうなと思う。
私ほどになると、無理してそんな繋げなくてもいいじゃないのと、そんな風にみてしまう。だが本作からその「つながり」を引いたらほとんどなにも残らない。ちょっぴりのお涙ちょうだいだけだ。ガツンと伝わるテーマもないし、まだまだ物足りない。あるいはこうしたいたらなさは、石川淳一監督の初監督作品だからなのか。そこは何とも言えない。
とはいえ、戸田恵梨香の対人恐怖症の演技はなかなかいいし、脚本に力を入れる方向性じたいは賛成したいところ。次の作品に期待がつながる点は嬉しい収穫といえる。