「イントゥ・ザ・ウッズ」60点(100点満点中)
監督:ロブ・マーシャル 出演:メリル・ストリープ ジョニー・デップ
ディスニー的なもののスクラップ・アンド・ビルド
大ヒット作「アナ雪」など、近年のディズニーは王道崩しが王道になっているという奇妙な状況にある。主だったコンテンツホルダーを買収しつくした帝国の余裕といったところだが、中でも「イントゥ・ザ・ウッズ」はきわめつけだ。
魔女(メリル・ストリープ)の呪いで子供に恵まれないパン屋の夫婦。魔女がいうには、4つのアイテムを森から持ち帰ることで呪いが解けるという。それらを集める過程で、赤ずきん、ラプンツェル、ジャック、シンデレラといった奇妙な連中と深くかかわっていく彼らだが……。
ディズニーランドが大好きなメルヘン少女がみたら仰天確実な、ディズニー自らによるディズニー壊し。数々のお姫様物語の幻想を完全崩壊させる、破壊力抜群の実写ミュージカルである。
たとえば赤ずきんは図々しく人のパンを持っていき、シンデレラはあとで金持ち王子が拾うように自分から靴を計算づくで置いていく。一方イケメン王子様は路チュー熟女センセイもびっくりのなりふり構わぬ快楽主義者と、この森のキャラクターはどいつこいつも自分勝手、打算的だ。
この世界がやがて崩壊の危機に陥ると、彼らはガン首つきあわせていったい誰にこの責任があるのか、議論を始める。ここにいたるまでが結構長く退屈もあるが、この議論シーンは非常に興味深い。
話せば話すほど誰に原因があるのか、わけがわからなくなってくる。メリル・ストリープ演じる魔女は、じつのところ一番ベストに近い解決策を提案するが、ほかの人たち=伝統的なおとぎ話の主人公たちはそれをいやがる。
そして、いかにも正しいように見える解決策を採った結果、いったい誰が命を落とすのか。そして、その者は善人か、悪人か。
この構図に、この物語最大のポイントがある。おとぎ話を集めたら、新たな寓話が生まれた。しかもそれは、きわめて思わせぶりかつ現代的である。
そもそもタイトルにもある「森」とはなにを比喩しているのか。「中間の世界、道は常に壊れ、善も悪も倫理もない、怖い者が唐突に現れるところ」そこで繰り広げられるドラマは、まさに上記の説明通りである。
この「森」、はてはて、私たちもよく知っている世界ではないのかな?
そんな風に語りかけてくる「イントゥ・ザ・ウッズ」。音楽の歌詞も含めて分析のしがいがある、ディズニーからのちょっとした挑発、挑戦といえるだろう。
そのためのヒントとして挙げておきたいのは、魔女が、キャラクターたちを分析分類する場面。
いやいや、こんなややこしいものじゃなくて伝統的なディズニー的な映画、感動がほしいという方は来月(2015年4月25日)までまって実写版「シンデレラ」をみるといい。
そうではない、セルフパロディというにはあまりに過激なテーマをはらむ問題作を、深読みして楽しみたい方はこちらの「イントゥ・ザ・ウッズ」をこそ見逃さぬよう。