「さいはてにて〜やさしい香りと待ちながら〜」70点(100点満点中)
監督:チアン・ショウチョン 出演:永作博美 佐々木希
女性が描く女性の物語
今年の東映は岬とコーヒーがよっぽど好きなようだが、トホホ感の強かった吉永小百合のコーヒー店とは違い「さいはてにて〜やさしい香りと待ちながら〜」は、主要なキャストの演技力を堪能できる力作に仕上がっている。
故郷の奥能登で焙煎珈琲の店を開いた岬(永作博美)は、隣に住む小学生の娘と交流するようになる。その子の母親・絵里子(佐々木希)はキャバクラ嬢をしながらシングルマザーとして育てていたが、はた目にはとてもじゃないが、まともな母親には見えないのだった。
徹頭徹尾、父性が不在な物語。わけありなハイミス女と、母親になるには未熟すぎるシングルマザー、そしてその娘。世間から阻害された3人の弱き女たちが身を寄せあいなんとか生きる道を探る。そんな共感度の高いドラマである。
前半は演技派として定着した感のある永作博美が、謎めいた過去を持つ女として引っ張り、中盤以降とラストは日本一きれいな顔を持つ佐々木希がきっちり締めている。特に評価すべきは佐々木希の好演といえる。
彼女が演じるキャラクター絵里子は給食費を滞納して子供に恥をかかせた上、自分はろくでなしの男に金を持っていかれるような、筋金入りのだめ母として当初描かれる。佐々木の、さいはての地には場違いなキャバ嬢的ルックスが、観客の嫌悪感をかき立てる。
ところがこのイメージを、中盤でダイナミックにひっくり返す。こいつは典型的なバカ母だなと思っていた観客に、ピアスのエピソードで「おや、確かにバカだけど意外といい奴かも」と感じさせ、あっという間にその評価を激変させる。
あれほど憎悪をむき出しにしていた永作博美への反発も、絶望的なまでの疎外感と孤独からくるものだったことが徐々に伝わってくる。このあたりは見てもらえば一目でわかるし、また面白いところなのであまりくどくは記さないでおく。
そんな彼女がラストシーンでみせる表情、これは最大の見せ場である。
あれほど抑えた表情で、雄弁にその心中をこちらに伝えられるのだから佐々木希はすごい。これをもし宮崎あおいあたりがやったら、満面の笑顔で映画を台無しにしかねない。そんな難所を完璧にこなした。
佐々木希は洋画好きなので、本能的にこういう繊細な演技ができる。彼女の、こうした抑えた表情の演技は海外作品向きであり、早くハリウッド進出せよと言っているのだが、本人はいまだ欲がないようである。
台湾の女性監督チアン・ショウチョンのべたつかない冷静なタッチがまたよい。タイトルにふさわしい裏寂しい舞台だが、そこでたくましく、麦のように立ち上がるか弱き女たちの物語を成立させた。女が描く女は、被写体と距離感をとることに躊躇しない場合はかようにうまくいく。
普通に考えればこの女性たちの境遇はお先真っ暗に近いものがあると思うが、永作博美が醸し出す妙なやり手感、そしてのぞみんの常軌を逸した美貌によって、最悪の未来はないだろうと観客に確信させる仕組みになっている。その意味でも絵里子の役を演じられる女優はほかにいない。これは別に当サイトが佐々木の顔を特別に好んでいるということではまったくなく、見ればわかるが実際にそういう役柄設定になっているのである。誤解せぬよう。
唯一の不満は、暴行シーンを体のライン丸だしで生々しく演じた永作博美に比べ、肝心の佐々木希には濡れ場や露出がほとんどない点である。
もっとも、そんなものは作品上、どう考えても必然性がないのであり、当然ながら評価点数の増減には無関係である。ではなぜそんなことを書いているのかとの声もあるかもしれないが、そういう事には深くつっこまないのが当サイト読者の暗黙の了解といえるだろう。