「ハルサーエイカー THE MOVIE エイカーズ」60点(100点満点中)
監督:岸本司 出演:AKINA 福田萌子

沖縄らしい異色のヒーローもの

2011年から始まった特撮テレビドラマの映画化「ハルサーエイカー THE MOVIE エイカーズ」は沖縄のご当地ヒーローものだが、なるほど、東京のそれとは大きく違ってなかなかユニークな価値観の作品である。

ハルサーエイカーの末裔である田畑ハル(AKINA)は、すぐれたハルサーエイカーである妹アイの陰に隠れていた。だが神の宿る森で開発が強行されるとの話を聞いて、自分が現地に向かう。するとゴミから誕生した怪物、ドブーとチリーに遭遇するのだった。

「ハルサーエイカー THE MOVIE エイカーズ」の特徴は、主人公ハルが極力戦いを避け、話し合いで化け物たちと和解しようとする点である。

なにしろ本土(?)の戦隊ものはヒーローが強すぎて、ほとんど怪物側が気の毒になるほどボッコボコにされてしまう。毎週そんな集団リンチ状態の好戦的ヒーローをみていたら、なるほどテロリストは全部悪、殺せ殺せーの単細胞人間になってしまうだろう。

声が魅力的なAKINA演じるハルは、その意味ではまさに沖縄的世論ということか。ヒーローなのに一撃でのされたりと、驚くべきシーンが続出する。

悪党も、よくよくみるとそれなりに理にかなったことをいっているので、適度に話が通じるところがこれまたおもしろい。こういう世界観は、むしろ一般的な子供向けヒーローもののよりもはるかに現実社会に近い。

善悪二元論の勧善懲悪ものを見て育ち、無意識に現実にその価値観を当てはめようとする。そういう人間が増えた結果、その弊害がいままさに目の前で繰り広げられている。ウヨだサヨだと年中ののしりあうインターネット掲示板もしかり、イスラム国の人質事件に対する国民世論の反応もまたしかり、だ。

これから求められるのは、そういうもののインチキさに本能的に気づき、当然のように疑問をもつ人間であろう。そう考えると、子供だましの絵空事を見せるより、この作品のほうが教育にいいような気もしてくる。

残念なのは、結局そんなハルも最後は力=軍事力に頼らざるを得ないというか、そうしないと映画的にしまらないという点か。それでもいやいや戦うあたりが、この作品の個性といえるわけだが。

現実社会を暗喩したこの社会性を、できればもう少し強めてほしいところ。なにしろ沖縄といったら平和主義。全国公開するというのなら、いま話題の普天間基地移転だとか、いっそそういう話題のあれこれを全部入れてしまったらよかった。

もっとも本作でも、敵の登場シーンに米軍機らしき効果音を使ったりとそれなりにがんばってはいるが、せっかくの映画だ。もっと思い切ってやったらいい。

あるいは、ゴミじゃないものをゴミとする、そこにテーマを絞れたならば、さらによくなったと思うがどうだろうか。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.