「ドラフト・デイ」65点(100点満点中)
監督:アイヴァン・ライトマン 出演:ケヴィン・コスナー ジェニファー・ガーナー

ドラフトだけで映画を作ってしまう

もし忠臣蔵の映画で討ち入りシーンがなかったらお客は怒るだろう。小向美奈子のDVDを買って水着だけで終わったら、10年前ならともかく金返せといわれてしまう。

ものごと、絶対必要な要素というものがあるわけだが「ドラフト・デイ」はすごい。アメフト映画だというのに、なんとアメフトをする場面がない。厳密には少しだけあるが、見せ場ではない。

クリーブランド・ブラウンズのゼネラルマネージャー、サニー(ケヴィン・コスナー)はチームの不振を今回のドラフトで取り戻すことができなければ、クビというところまで追いつめられていた。その焦りからか、序盤に極端に不利な事前取引をしてしまい、彼はさらに苦境に追い込まれる。

NFLはドラフト発祥のプロスポーツだけあって、毎年それは大いに盛り上がる。ショウアップされたイベントは華やかで、独特のルールもスリルを呼ぶ仕組みだ。

その「NFL独特のルール」は、映画の上映前に親切にも紹介ビデオが流されるのでここでは説明無用だろう。これがあるおかげで最後の1秒まで目が離せないわけだが、まったくアメリカ人というやつはなんでも楽しむ天才だと感心させられる。

誰が誰を指名するか、来年以降の指名権と引き替えに誰をゲットするか等々、予想以上に映画は盛り上がる。とくにドラフト会議が始まってからは、それが十二分に見せ場になることを証明する。分割画面や大げさな音楽、演技など、アクの強い異色スポーツ映画を楽しめるだろう。

まるで戦略的にコマをすすめるチェスのように、あるいは騙しあいのポーカーゲームのように楽しめるNFLドラフト。そして、それが若者の将来を左右する重要なイベントだったことに終盤あらためて気づかされ、観客も涙する。

さすがに、全く興味がない人には厳しいし長すぎるが、多少でもあるならば、NFLの人名など一つも知らないような人でも十分楽しめる。そのうち日本のプロスポーツのドラフトも、この映画に影響されてブームがおきるのではあるまいか。



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