「フューリー」85点(100点満点中)
監督:デヴィッド・エアー 出演:ブラッド・ピット シャイア・ラブーフ

戦場のリアリティの中で光るセンチメンタリズム

「フューリー」は軍経験者のデヴィッド・エアー監督が、博物館から本物の戦車を借りて撮影した戦場映画である。戦闘映画といってもいい。本物の戦車でタンクムービーをとるなんて、まさに中二の夢そのものだが、実現のみならず稀代の傑作に仕上げてしまうのだからハリウッド恐るべし。

1945年の欧州戦線。連合軍の戦車乗り・通称ウォーダディー(ブラッド・ピット)は、フューリーと名付けた愛車のシャーマンM4中戦車を駆り、仲間たちと鉄壁のチームワークで生き残っていた。ところがあるとき、戦死した仲間の補充に新兵(ローガン・ラーマン)をあてがわれ、危険な前線任務を命じられる。

敵の巨大戦車ティーガー戦ほか、とてつもない恐怖と興奮を与える戦闘シーンの連続である。跳弾の表現や貫通力重視の対戦車弾の特性など、ディテールにこだわった(かつ分かりやすく観客に伝える)演出は画期的で、今後本作はタンクムービーの新たなる最高峰として映画史に君臨することになるだろう。

連合軍、ドイツ軍、どちらにも過剰に肩入れせず、かといって突き放しもしない。戦場への愛着すら感じさせる不思議な戦争映画である。

新兵が初めて人を殺すところからはじまり、一人前の兵士に成長する話がメインではあるが、それが圧倒的な説得力を持つのは導き役のブラッド・ピットがえらい魅力を放っているから。これぞ大スターのカリスマというやつで、彼のようなリーダーのもとで戦うならば、だれしも命を投げ出しこういう行動をとるだろうと思わせる。

平和な国に住む私たちは、ともすると戦争にいって人殺しをするなんてのは、よほどの強制力がなくては無理だろうと勘違いしてしまう。本作はそんな平和ボケを修正するのに役立つだろう。

航空優勢もないまま、即死クラスの攻撃をいつくらうか、不十分な戦力で恐怖しながら進軍する過酷な戦場の物語。こんな旅の中でも、監督は心温まる一瞬のドラマを配置する。

とくに最後のドイツ兵士の行動が心に残る。これぞ戦場のセンチメンタリズムというわけだが、これが単なるご都合主義に見えないのはそのための布石を序盤から積み上げてきている点と、監督のやさしさのような視点が伝わってくるから。

一方、本作では英雄なんていう言葉は誰の耳にもむなしく響く。ただただ順番がきたかのように唐突に死んでいく友軍の兵士たちや、このドイツ兵の行動によって、意図的にそう感じるように演出されている。

少女との食事や交流、教育的殺人など一見妙なエピソードの全ても綿密に計算された必然性というものを感じさせる。すべてが伏線として結末につながるので、まったく混乱はしない。見終わった後、戦争やそこでの人間の行動というものに、なにがしかの疑問を持つように作られている。

残酷ショットやシーンが多いものの、戦争・戦場の現実というものをあくまで映画という枠組みの中でリアリティをもって見せてくれる、これは傑作である。子供が中学生くらいになったら、親が注意深く見守りながら、ぜひ見せてあげてほしい。

感動的なストーリーと見ごたえのある映像、血沸き肉躍るスリル。エンターテイメント性の高い、見事な戦争映画である。



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