「サボタージュ」45点(100点満点中)
監督:デヴィッド・エアー 出演:アーノルド・シュワルツェネッガー サム・ワーシントン

意欲作だが失速

アーノルド・シュワルツェネッガーという俳優は昔から、自らの筋肉量に振り回されてきた印象がある。全盛期にはそうしたアクション専門のレッテルを打破するべく、無理やりコメディをやってみたりするが、いまいち乗り切れなかった。

およそ全スポーツの中で、もっとも知識と忍耐力、計画性を問われるであろうボディビルのチャンピオンだった彼にとって、筋肉バカなどと揶揄されるのはたまらないことだったろう。政治家への挑戦もそうした反骨精神が根底にあると思われる。カリフォルニア州知事を経て映画界に復帰した後も、ファンサービスに徹するスタローンとは異なり、新しい挑戦を続けている。

そんな彼が選んだ「サボタージュ」は、なるほど過去の出演作とはずいぶん異なる、相当な異色作であった。

麻薬取締局DEAのジョン(アーノルド・シュワルツェネッガー)率いる急襲チームは鉄壁のチームワークと命知らずな戦いぶりで目覚ましい成果を上げていた。だが彼らはその裏で、麻薬カルテルからの押収金から1000万ドルを密かに奪い、山分けする計画を実行していたのだった。

ここからが映画は本番。最強の8人チームはその後何者かに命を一人一人奪われていく。シュワ演じるリーダーは、捜査官として、あるいは盗んだ1000万ドルとその秘密を守り抜くため、犯人を血眼になって追う展開。はたして誰がやったのか、あるいは戦友と信頼する仲間の誰かなのか……。

「サボタージュ」はこれまでシュワルツェネッガーが出てきたヒーローもので、それをデヴィッド・エアー監督のリアル志向な映像・演出でみせる本格アクションかと見る前は誰もが思うだろう。

だが実際は、その先入観を逆手に取ったミステリドラマ(アクション多数あり)である。シュワのこれまでのキャリア、"脳味噌より筋肉"とのマッチョ主義の誤解をミスリードに利用した仰天の一本──になるはずであった。

しかしながら、本人の容姿の衰え、挙動の不自然さから、最初から観客が身構えてしまうためにその仕掛けは失敗。もう少しがんばって、観客になにも違和感を感じさせず、ひっくり返すことができていたらそれなりの傑作になったのだが。それも、最後の最後までノーテンキアクションとみせかけ、しかしよく後でかんがえてみると……という方式が望ましい。

それにしてもこの映画、真相を知った後に見直すと、ある襲撃シーンの様相が正反対になったりして、とてつもなく不気味である。その不気味さは、麻薬、メキシコマフィアといった世界最悪の犯罪集団にかかわる危険性をより強く感じさせる効果が本来あるはずなのだが、そこがもう一つ、なのであった。

個人的に楽しく見られたのが、シュワのウェイトトレーニングシーン。ダンベルプルオーバーを見せるあたりが、実に彼らしい。このシーンにおいてこの種目を見せることを選んだのは、間違いなくシュワ本人であろう。彼の身体の特長である巨大な胸郭を際立たせるし、それを育てたのはこの種目であると、シュワルツェネッガーは若いころに語っている。私自身、この種目をいまだ(背中でなく)胸のルーティンに加えているのは彼の影響である。

俳優でなく、レジェンドビルダーとしての彼の崇拝者にも、そういう人はきっと多いはずである。



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