「沈黙のSHINGEKI/進撃」55点(100点満点中)
監督:ジャスティン・スティール 出演:ジョージ・イーズ アナリン・マコード

肩透かしを食らおうとセガールについていく男のためだけの映画

スティーヴン・セガールといえば世界最強。ハリウッドの枠を、いやフィクションの枠すら悠々と乗り越え、いまや恐怖のメキシコマフィアから国境を警備する警官、保安官として、あるいはアリゾナの州知事候補として現実の悪と戦う男である。

そんなセガールの沈黙シリーズといえば、泣く子も黙る痛快アクション。むしろ悪党が気の毒になったり、どう見てもお前のほうが多く殺しているだろうと誰もが突っ込みたくなる彼の代表シリーズである。各作品の内容にまったくつながりはないし、セガール演じる主人公の職業もまちまちだが、コックだろうが環境運動家だろうがとにかく強くて、悪を全滅させるのは同じである。

そんなセガールにはもうひとつ、ローマ字題名シリーズ(?)といって、こちらもセガールが相手をコテンパンにぶちのめすアクションシリーズがあるわけだが、「沈黙のSHINGEKI/進撃」はなんとその両者を融合させた話題作。これはどう考えても、歴代セガール出演作の中でも必見の、何かが起こる予感プンプンの最新作と言わざるを得ない。

ラスベガスでギャンブラーとして名が通るジャック・ダニエル(ジョージ・イーズ)は、あるとき富豪のダフィー(スティーヴン・ラング)から奇妙な依頼を受ける。だがそのばかげた依頼を断った上に、彼の女(アナリン・マコード)の誘惑に乗ってしまったことから、にっちもさっちもいかぬ状況に追い込まれてしまう。

さて、このチンケなギャンブラーが助けを求めるのが、スティーヴン・セガール演じるポーラインという男。何をやっているのかはよくわからないが、どうやら裏社会に顔が利くようだ。なるほど、困った時に助けを求める相手としては、これは大正解な選択である。今回もマフィアだろうがなんだろうが悪党上等、ベガス大虐殺が繰り広げられるのだろう……と誰もが思う。

ところがこの映画は、そうしたセガール映画の常識をすべて覆すとんでもない展開になる。よもや沈黙(とローマ字)シリーズ最新作、ダブルネームの話題作がこんなストーリーだったとは、誰も夢にも思わないだろう。

あまりあおってしまうと本気で叱られそうなので少しだけ中身を書くが、これは正確にはアクション映画ではない。むしろ詐欺師の映画、とでも言っておいたほうがよさそうだ。

脚本のあちこちには、ノーガードで観客からの突っ込みを受ける準備がなされており、さらに言えば何ひとつひねりがない。

日本の相撲には肩透かしという技があるが、これは映画史上まれにみるリアル肩透かしを体験できる映画である。

通常ならば到底こんな点数をあげられるものではないが、普通に見て面白いのと、なんといってもこれはセガール映画。セガールならば……いやセガールファンならば、この程度の打撃には慣れているはずだ。いやむしろマゾといってもいい。

そうした真のセガールファンのためだけに、私はこの映画をすすめたいと思う。しかし、鑑賞後のクレームについて、その一切を受け付ける予定はない。



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