「怪しい彼女」70点(100点満点中)
監督:ファン・ドンヒョク 出演:シム・ウンギョン ナ・ムニ

韓国男性の理想

韓国の男性はマザコンが多いのか気の強いヒロインが出てくるコメディの人気が高い。見た目は若くて美人だが、主人公をしかる姿はオモニそのもの。男性は等しく母親的要素を妻に求めるなどというが、かの国のラブコメは、とりわけその集大成的妄想作劇が多いように思われる。

70歳のおばあさんマルスン(ナ・ムニ)は、今日も職場のカフェで知り合いと大喧嘩を繰り広げるほど血の気が多く、健康な日々を過ごしていた。ところが家族がそんな自分に手を焼き、施設に入れようとしていることを知ってしまう。いささか落ち込みつつ、偶然とおりすがった写真館に入った彼女は、その奇妙な店主のいうとおり写真をとってもらう。すると、彼女に信じられない変化が起こるのだった。

「怪しい彼女」も邦題のインスパイヤー元である「猟奇的な彼女」(01年)などと同様、そうした一本だが、ここにでてくるヒロインは文字通りマザー=肉親である。なにしろ主人公は70歳からいきなり見た目だけ20歳に戻ってしまう女性。彼女が70歳時代と同じ異様なハイテンションのまま、周りの男たちをマシンガン叱責する。そんなコメディである。

「かわいくて若いお母さんに叱ってもらいたい」まさに、韓国人男性の多くが追い求めるこれぞ理想女性。彼らにこの手のコメディをやらせると、さすがにはずれがない。

性格だけいじわるばあさんの二十歳という、このおかしな生物は、人生リセットに近い自由を手に入れそれを満喫する。貧しくてできなかった夢、歌を歌ったり恋をしたり、そんな女の喜びを全身で受け止める。

さて、70歳の知恵とクソ度胸を得たまま、フリーハンドに近い未来をえらべるとしたら、人間どうするのか。この映画はその選択がクライマックスとなっている。日本人ならドン引き寸前の口うるさいこのババァ二十歳の濃すぎるキャラクター、行動が、ここで涙腺破壊につながる伏線として生きてくる。

演じるシム・ウンギョンは子役出身の演技派で、けっしてルックス重視のキャスティングではない。そのためもあってか、本国での興行はふるわなかったようだ。韓国男性たちの隠れた性癖をつく映画なのだから、彼らが喜ぶ女優をキャスティングすべきだったのだが、製作人はそこがイマイチわかっていなかったようだ。

それでも「怪しい彼女」は、笑って歌って涙して、の韓流エンタテイメントの魅力を結集したような楽しい映画。カップルや母子で気軽に見に行って、案外良かったねと映画館をでてこられる、なかなかの優れものである。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.