「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」70点(100点満点中)
監督:アレクサンダー・ペイン 出演:ブルース・ダーン ウィル・フォーテ

弱者の一撃

最近は親切な金持ちが多いようで、私がネット上に公開しているメールアドレスあてに、毎日のように「お金を振り込みますので口座を教えてくれと」のメッセージを寄越してくる。きっとなんとかミクスのおかげで株長者にでもなった方からだと思うが、タダで5400万もいただくのはさすがに申し訳ないので返信したことはない。

モンタナ州の片田舎で暮らす老人ウディ(ブルース・ダーン)は、100万ドル当選の詐欺ダイレクトメールを信じ家を出る。家族らがそのたびに慌てて止めるのだが、何度引き戻しても頑としてウディはいうことを聞かない。やがて息子のデイビッド(ウィル・フォーテ)は、父親の気が済むまでつきあってやろうと、遠きネブラスカまでの旅に同行するのだが……。

若い頃からインチキなものを見通す本能的眼力を持つ私は、なんとかミクスも母さん助けて詐欺も、つゆほども信じることはない。

だが「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」のウディは違った。痴呆気味なのか別の理由があるのか、序盤ではいまいちはっきりしないが、ともかく彼は家族の制止も聞かず、遠くネブラスカまで当選チケットを引き替えにいこうとする。

優しい性格の息子とて、当然詐欺だとわかってはいるが、とことんやらせないと事後がよろしくないと判断。映画はそこから、父子二人の風変わりなロードムービーとなる。

他の登場人物では、口うるさく下品な母親の存在が強烈。こんなオバサンと一緒じゃこりゃボケたくもなるよなという感じ。だがその強さで一家を支えてきたという事もわかる。

そうした絶対的パワーの目から逃れた父子の関係は、互いへの思いやりに満ちている。親切面してそのじつ、父親を小馬鹿にしている町の連中に息子が怒りを爆発させる場面などは思わず涙を誘う。ここにでてくる人間たちは、世間的には愚か者かもしれないが、それでも愛するものへの思いは純粋である。

最後に決して論理では割り切れぬ、つまり、あまりに割に合わない選択を息子はするが、その痛快さ、心優しさといったらない。弱者が一矢を報いる姿というのはいいものだ。底辺の男たちとて、少しくらいカッコつけてもいいだろう。

この監督の作風としては意外性がなく、いつもどおり上手で手堅い。それでも普遍的な父子の人間ドラマとして、共感を集めきったとはいえず傑作にはなりきれていない。悪くはないし見所もあるが惜しいところ。



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