「リュウセイ」65点(100点満点中)
監督:谷健二 脚本:佐東みどり 出演:遠藤要 佐藤祐基 馬場良馬 緑川静香 小原春香

苦しむ若者に寄り添う

一流のスタッフが流し運転で作ったような映画が公開される週に、「リュウセイ」のような若い監督の本気のデビュー作が並ぶ。前者を見て感じた不満が、そのままこちらで解消される。ユニークな偶然もあるものだ。

中学生時代のある日の夜、話題の流星群を見るため、偶然にも同じ場所にやってきた3人。彼らはやがて成長し、それぞれの道を歩き始めた。亨(遠藤要)はバンドの夢を半ばあきらめ居酒屋で働き、竜太(佐藤祐基)はキャバクラ嬢の送迎の仕事をしていた。一方、晴彦(馬場良馬)はいっぱしの企業に勤めながらも借金取りに追い詰められていたが、それを秘密にしたまま実家に戻ってくる。

谷健二監督は若い、といっても76年生まれだから人生の苦労を知る年ごろだろう。よどんだ生活を送る3人の若者が、はたしてちょいと方向修正して気合を入れなおせるかどうか……といった物語をデビュー作に選んだのは、彼らの不器用な生きざまに暖かい共感を寄せる思いがあったからだと思いたい。

谷監督の世代はいわゆる就職氷河期にあたり、苦労ばかりで報われない青春時代を過ごした人が少なくなかった。ワーキングプアや派遣切りなどといった根深い労働問題の被害者もこの世代に多い。おそらく監督自身も、そうした暗い世相を観察してきたに違いないが、だからこそこうしたもがき苦しく若者のドラマをリアルに描くことができる。

特筆すべきは、決して悲観的にならず、かといってノー天気な楽観主義に逃げない、現実のビターな空気感を失わずに完結させたところ。「リュウセイ」のような作品は、監督世代以下の、ようは「まだ間に合う」若者に見せたいところだが、彼らを励ますという意味ならば、上記のような両極端な作風はいかにもまずい。

この作品くらい控えめな、「これで好転したかどうかはわからない、だがなんとか今日もつぶれずに進んでいる」くらいが胸を打つのである。

こうしたドラマ作りのバランス感覚というかセンスは、持っているかどうかで別れてしまう性質のものであり、その意味で谷健二監督には今後も期待できると私は感じている。

個人的に気になったキャラクターは、晴彦の父親。彼は自動車修理店を営んでいるが、不景気や時代の変化を受け、いまやじり貧である。ちっぽけな地元で営業に奔走する姿はお世辞にも格好良いとは言えないが、そんな父に対し、晴彦は幻滅するわけでも反抗することもなく、とても素直な態度で接している。

この父子の関係が妙にリアルで印象に残った。この息子はろくでもないところから借金をして追い込まれている、いわばダメ人間である。

……が、果たして本当に彼はダメなのかと思う。確かに世間知らずで、見栄っ張りなところもあるかもしれない。だが苦労する父親に、彼はこんな風に接することができる。素直な優しい男である。個人的には、こういう人間的には決して悪人ではない若者が、いつの間にやら人生破滅の危機をしょい込む社会の恐ろしさというものが、この設定に潜んでいるように思え、怒りとやるせ無さを感じたものである。

メジャー作品に比べたらお金もかかっていないし、やれることは限られている。だが、作り手の熱い思いが伝わる暖かい作品である。万人に向くわけではないが、今、人生八方塞がりな思いをして悩んでいる30代くらいまでの人がいたとしたら、試しに見に行ってほしい。ほんのわずか、何かのきっかけになるかもしれない。



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