「家族の灯り」40点(100点満点中)
監督:マノエル・デ・オリヴェイラ 出演:マイケル・ロンズデール クラウディア・カルディナーレ

105歳の現役映画監督

105歳の現役映画監督が存在することだけでもすごいことだが、その新作のテーマが「貧困」だときいてさらに驚く。実際「家族の灯り」で描かれる貧困老人の姿は、これを同じ老人が撮っていると思うとあまりの容赦のなさに圧倒される。

帳簿係でつましく暮らすジェボ(マイケル・ロンズデール)は、今日も妻ドロテイア(クラウディア・カルディナーレ)、失踪中の息子の嫁ソフィア(レオノール・シルヴェイラ)の3人で言い争いをしている。8年前に息子ジョアンがいなくなってからというもの、貧しい3人はいつもこの話題で先の見えない不安に包まれているのだった。だが、そんなとき意外な展開が訪れる。

20年前の戯曲が元というのもあるのだろうが、演出もストーリーもきわめてシンプル。無駄をそぎ落としたような、なかなかほかでは見られない作風といえる。

基本的には室内だけで進行、カメラはフィクス、主要な登場人物は3人で、それにシーンごとにプラスアルファが加わる。それだけだ。

たとえば3人で会話しているときも、ソフィアの泣き顔のアップを移せば背後に流れる残り二人の会話の意味が鮮明に伝わってくる。そうした小さなテクニックを駆使して、3人の人間関係、力関係のようなものを序盤で分かりやすく伝える。

もっとも、後半になっても劇的に展開するわけではないから、少々の退屈感をかんじるのはやむなし。

それでもこの不条理感あふれるエンディングをみて、観客は多くの思索をよぎなくされるだろう。名誉を守るにはどうするか、なにが必要か。カネがなくともそれはできるのか。貧困老人がたどる運命とはいかなものか。

万人向けというわけではないが、テーマと105歳の演出のベテランの技を味わいたいひとは、試してみてもいいかと思う。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.