「ザ・イースト」70点(100点満点中)
監督:ザル・バトマングリッジ 出演:ブリット・マーリング アレキサンダー・スカルスガルド

アメリカでは実際にこういう世界がある

想像を絶する被害を出した福島第一原発事故の後、世間ではいずれ東電に自爆テロを起こす被害者がでてくるのではないかと言われた。幸い、セシウムガレキを内幸町にぶちまける奴はまだ出ていないようだが、別の会社で待遇の不満から農薬を自社の冷凍食品にぶちこむ者は現れた。

企業もあまり労働者や国民をなめていると、とんでもない攻撃を受けることがある。世界一怒りがさめやすく、耐え難きを耐える日本人でさえ、そうである。

そんな現在、「ザ・イースト」は日本人にこそ響く内容の異色作といえる。

安全や環境対策をおろそかにする悪どい企業に、実力行使で抗議活動を行う団体「ザ・イースト」。彼らは環境テロリストと呼ばれていたが、その実態は不明であった。元FBIエージェントのサラ(ブリット・マーリング)は、そうした環境テロ対策の専門会社の調査員。クライアントの企業の依頼により、彼女はいままさにザ・イーストへと潜入を試みていた。

環境テロリストに潜入した元FBIの美人調査員。犯罪集団だと思っていた連中が実はまったく違った素顔を持っているのを知った彼女。はたして、ミイラとりがミイラになるのか、それとも……。

民間のセキュリティ企業が過激な環境団体にスパイを送り込む。いかに企業の横暴が目立つ現代日本でも、少々荒唐無稽に思われる設定だ。

だが、アメリカではこれは現実。

グリーンピースのような国際的な環境保護団体が活発で、社会にも多大な影響を与えているかの国では、そうした団体に企業がスパイを送り込むことなど日常茶飯事。あのマクドナルドでさえ、グリーンピースにスパイを送り込んで書類を盗みだしたりしていたというのだから「ザ・イースト」の世界設定も馬鹿にはできない。

もっとも、そこまで諜報活動している割に日本のマックは絶不調だが……。さっさと帰れといわんばかりに、他の客とあえて目線が交差するように配置された落ち着かない座席のデザインを、まずは改めたほうがよいだろう。

それはともかく、この映画の主演ブリット・マーリングは、監督と連れだってバックパッカーになり、無政府主義者やごみ箱ダイバーたちと共同生活をして役作りをしたほど本作に入れ込んでいる。彼女は脚本と製作にも名前を連ねる。もともとゴールドマンサックスにいながら女優に転身した彼女、演技の迫真度が違う。

前半の、女ジェイソン・ボーンのような敏腕エージェントぶりも恰好いいし、身分を隠しながら深く潜入し、環境テロリストたちの内部を暴いていく様子もスリルがある。

ただ、いかにも女性脚本家らしい感情論が顔をのぞかせ、終盤の説得力を薄めているのが惜しい。作り手が「ザ・イースト」側に過剰にいれ込んでいる様子が感じられるのはよくない。

具体的には、ある男とのセックスシーンをいれ込んだのも、作品のテーマを訴える面からは逆効果だった。いや、美人の裸は見せていただいて結構なのだが、これではこの女性の変化が、結局オトコとのセックスによるものかと思えてしまう。オンナというものはヤればヤるほどのめりこむ生き物と世間では認識されているのであり、そうでないことを示したいなら、映画的にはむしろこういうシーンは要らないのである。



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