「ウルフ・オブ・ウォールストリート」60点(100点満点中)
監督:マーティン・スコセッシ 出演:レオナルド・ディカプリオ ジョナ・ヒル

成金描写がステレオタイプすぎ

いまの時代は、カネを稼ぐほど偉いとの風潮がある。カネの価値に変わりはない、色は付いていないというわけだが、実際は違う。稼ぎ方によって、カネの価値は明らかに異なる。

テキトーぶっこいて大して価値のないものに大金を投資させて莫大な手数料をぶんどるなんてものは、もっとも「価値」の低いカネ=報酬である。それに比べ、人々を楽しませる文章を書いたり、楽しい映画を紹介して喜ばれたりして、そうして幸せになった人々からいただくお金というのは、大変な価値がある。50年もすれば、両者の幸福度の違いは人相に現れる。死ぬときに、堂々と生きたと満足して死ねるのはどちらか。自分の稼ぐカネの価値を考えて生きることは、かように重要である。

なおこの文章について、誰か特定の人物の経済的窮状を嘆いているわけでは絶対にないことを、ここに強調しておく。

80年代のウォール街。22歳でこの業界に入ったジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)は、持ち前の口のうまさと行動力で頭角を現していく。ほんの数年で自らの証券会社を立ち上げ、年収49億円まで上り詰めた彼は、しかし違法行為に手を出していた。常軌を逸した浪費ぶりとゴージャスな生きざまの先には、果たして何が待ち受けているのだろうか。

巨匠マーティン・スコセッシとオスカーを目指し続けるレオナルド・ディカプリオが、今度こそ演技賞をとるのではないかと期待されるドラマ。グローバル資本主義、国際金融資本に対する嫌悪感が共有されてきたこの時代にぴったりな、カネ至上主義へのアンチテーゼ的寓話である。レオが演じるジョーダン・ベルフォートの実話を基にしている。

それにしてもこれをみて思うのは、スコセッシもディカプリオも、毎度同じことばかりやるもんだということだ。物欲や煩悩にまみれ自滅していく人間に、よほど興味があるのだろうが既視感たっぷりだ。演技に意外性もなく、とくに進歩が見られるわけでもない。今回にしても、功労賞的な受賞はあるかもしれないが、そろそろ演技者として別の道を歩んでもいいのではないか。

また、アメリカの金持ちというのは、どうしてこう判で押したような意外性のない人生を歩むのだろう。不相応な金を稼いだものだからまともな使い方を知らず、快楽といえばおなじみの酒・ドラッグそして女とクルマ。

まったくもって独創性のない連中である。ほかにやることはないのかと、思わず説教したくなるつまらなさ、である。映画人たちも、たまにはビーズアクセサリーとかグッピー飼育とか、意外な趣味にはまる金持ちの姿を描いてみてはどうなのか。

もちろん、図抜けた力のある監督と役者だから3時間の上映時間も退屈せずに見せてくれる。決して駄作だというわけではない。むしろ面白い部類に入る。

とくにユニークなのは主人公の特技があおり演説で、毎朝それでアクの強いトレーダーたちを鼓舞して稼がせるというところ。ワタミかユニクロの経営者あたりがこいつをみたら、明日から早速、幹部用教材として採用確定なほどに、このシークエンスのインパクトは強い。

そろそろまとめると、私が冒頭に書いたありがたいお言葉「カネには稼ぎ方による価値の高低が存在する」を、何百億円もかけて伝えてくれる大作ドラマである。

見所があるからダメ認定はしない。しかし、ウリである主人公のハチャメチャ人生が、私にいわせればまったく平凡でつまらない生き方であること。その興ざめ感が作品の魅力をそいでいるのは残念なところである。



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