「フィルス」65点(100点満点中)
監督:ジョン・S・ベアード 出演:ジェームズ・マカヴォイ ジェイミー・ベル

テーマこそが18禁

R18+指定のコメディ「フィルス」は、あまりに不謹慎な警官が出てくるためのレーティング審査結果かと思っていたが、よくよく見るとむしろ作品のテーマこそがショッキングで、若者には見せたくないなと思わせる。

署内一の敏腕だと自負するブルース刑事(ジェームズ・マカヴォイ)は、日本人留学生殺害事件の指揮を任され鼻息を荒くする。証拠の少ないこの通り魔的事件を解決すれば、署内の出世競争で抜きんでることができるからだ。妻だってそうなれば喜ぶ。だがその事件捜査は、予想外の運命を彼にもたらすのだった。

ここでいう同僚・上司がろくでもない連中ばかりで、じつは脚本家志望なんてグータラなやつから、隠れゲイ、ヤク中新人と救いようがない。それを知らされた観客は、なるほどこの中ならキレ者主人公がトップに躍り出るのは当然だよな、とそう思う。

しかしそれは、話が進むごとに雲行きが怪しくなってくる。この男、確かに優秀そうに見えるものの、何かが変だぞ。いやいや、優秀どころかこの男は……と、見る目が変わってくる。最初に抱いた期待のようなものを何度も裏切られるような錯覚を覚えるが、やがてそれはエスカレートし、この作品がR18+である理由がわかってくる。そこからが見どころだ。

狂気と正気のバランスがそのうち逆転し、それにつれて主人公に起きた過去の出来事、そして想像を絶する現状が明らかになっていく。やがて時折戻る正気の時間こそが真に恐ろしいものだと気づいた時、彼が狂気の世界に逃げる意味が観客にも知れる。それこそが本作の持つ衝撃である。

そう、この悪夢を見ているような映画は、人間の壊れる姿、壊れ果てる姿を描いている。ブルースの行動は予測もつかない方向へと進んでいくが、そのころには彼がそうなる理由もわかるし共感できる。そういう風に観客の心を持っていく。これはある意味恐ろしい体験だ。

ラストシーンの美しいピアノ曲のメロディと、その切なさが心にいつまでも残る。どこかネジのとんだ映画ではあるが、パンチある作品であった。



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