「アブダクティ」60点(100点満点中)
監督:山口雄大 出演:温水洋一 麻亜里
おもしろいが終盤息切れ
狭い範囲内で物語を作るというのは、誰もが考えつくサスペンス映画のセオリーである。「フォーン・ブース」(02年)は電話ボックス、「ブレーキ」(12年)は車のトランク、「[リミット]」(10年)にいたっては棺桶の中と、その舞台の「狭さ」はエスカレートするばかりだ。
「アブダクティ」はそんな流れの中に現れた日本製ワンシチュエーションスリラー。うだつのあがらない中年男が、貨物輸送用コンテナに拉致監禁される不条理ドラマだ。
気の弱い中年男の千葉厚志(温水洋一)はガードマンの仕事中、拉致されコンテナの中に監禁される。移動しているようだが場所は全く分からない。身の回りの品はあるが、脱出に役立ちそうなのは携帯電話だけ。だが110番通報すると、なぜか奇妙な応対をされてしまう。
ありがちなアイデアではあるが、顔にビニール袋をかぶせられて始まるショッキングな冒頭からスリリングに見せる。やはりこの手の狭いところに閉じこめ系スリラーはおもしろい。
類似品との違いは、閉じこめられる場所がコンテナというところ。なるほどこれならセットはレンタルコンテナだけですむし、昼夜いつでも撮影ができて好都合だ。低予算映画としては正義といってよい設定である。
……などと意地悪な考察は冗談として、このコンテナの持つ特性が物語に生きている点は評価できる。
すなわち、コンテナは陸海空あらゆる輸送が可能であり、また同規格のそれを上下左右に自由に積み上げることができるという点である。
そう、主人公の男はただ一人の被害者でなく、彼の周囲には無数の同じ拉致被害者が存在する。リアル人間積み木状態となったこの状況。ならば、これを利用してなんとか犯人を出し抜けないか?
なるほど、新しいカギが準備された脱出映画というわけだ。
とはいえ──。声だけでコミュニケーションしているこの壁の向こう側の奴らは、本当に同じ「被害者」なのか。どこまで信頼が置けるのか。自分より前からここにいるというベテラン?被害者の情報は、どこまで信頼ができるのか。
どこにでもいるようなオッサンが主人公だから、おもいきり感情移入して恐怖の疑似体験ができるだろう。
問題はこの大風呂敷をどう収束するかだが、この結末については賛否あろう。このラストをみて、ふざけるな金かえせ! と叫ぶ人たちが7割以上いたとしても私は驚かない。そこまで十分わくわくできたのだからいいじゃないかという優しい観客が残り2割強といったところか。
さて、このとんでもないラストはどう解釈すべきか。タイトル通り、北朝鮮の拉致問題を暗喩しているのか。それならそれでユニークだと思う。この監督がそうした社会派なのかどうかはともかくとして……。
演出面では中盤以降、恐怖を盛り上げるアイデアの引き出しが枯渇気味で苦しいところ。設定はよかったが、もう少し脚本のブラッシュアップに時間をかけてほしかった、といった印象である。とはいえ、レイトショーで気楽にみる映画の満足度としては十分以上だろう。