「謝罪の王様」60点(100点満点中)
監督:水田伸生 出演:阿部サダヲ 井上真央

映画の脚本という感じではない

NHKドラマ「あまちゃん」最終回という絶好のタイミングをねらって公開される「謝罪の王様」は、その宮藤官九郎のオリジナル脚本が話題のコメディードラマ。さらに水田伸生監督、阿部サダヲ主演という、「舞妓 Haaaan!!!」「なくもんか」に続くおなじみのチームは、まさに3匹目のどじょうを狙う布陣といえる。

やくざ相手のトラブルを見事解決してやった縁で、東京謝罪センター所長で「謝罪のプロ」こと黒島(阿部サダヲ)は典子(井上真央)を助手として雇うことになった。彼らのもとには、既存のやり方では解決が難しいトラブルが、次々と舞い込んでくる。黒島の鮮やかな謝罪テクニックは、はたしてどこまで通用するのだろうか。

似た設定の漫画があるということで公開前から少々揉めていたものの、「謝罪師」とはなかなか新鮮なアイデアである。通常ならばお手上げの「やくざ相手の交通事故」を、頭を下げるだけで解決に導く冒頭の土下座アクション(?)など、見せ場としてもじつにおもしろい。阿部サダヲの演技も、このキャラクターにぴったりで、思わず笑いを誘う。

ただし肝心の脚本はいつものクドカン節。おもしろそうだと思えば、上映時間を気にせず寄り道をどんどんとしていく、悪く言えば行き当たりばったりな荒仕上げである。リアル感あるセリフと、時折はっとさせる笑いがあるほかは、あいかわらずダラダラとしている。

「人は裁判(で白黒つける)より、ただ謝って欲しいだけ」との主人公の台詞は心に響くが、人間観察のたまものというべきこうした素晴らしいセリフを書ける脚本家が、この程度の完成度でとどまっているのが私はいつも惜しい。

時間軸を行き来する構成いじりもお手の物といったところだが、これまでの引き出しからの再現にすぎず、特筆すべきものは感じない。綿密に伏線を張るタイプではないから、最後もイマイチしまりがない。

そもそも謝罪屋エピソードが多すぎる印象。映画ならせいぜい3つ程度でお腹一杯。もともとそれほど長持ちするネタとも思えぬ国家間謝罪エピソードも、あまりに引っ張りすぎだろう。

おじぎ文化を持つ日本において「謝罪専門業」という題材は、もっと人々をハッとさせる風刺にもなれたはずで、この程度で収束させてしまった点については不満を感じる。

脚本家のトップランナーとして最前線をゆくクドカンには、そろそろ生涯の代表作をたたき出すつもりで本気を見せてほしいと願う限りである。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.