「劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」55点(100点満点中)
2013年8 月 31 日(土)新宿バルト9ほか 全国公開 2013年/日本/カラー/99分/配給:アニプレックス
原作:超平和バスターズ 監督:長井龍雪 脚本:岡田麿里 キャラデザ・総作監:田中将賀 演出:吉岡忍 声の出演:入野自由 茅野愛衣 戸松遥 櫻井孝宏 早見沙織 近藤孝行
ファン向け限定品
フジテレビ「ノイタミナ」枠は、深夜ということもあって視聴者が大人に限定されるため、意欲的な企画が出てくることで評価されている。「あの花」「花の名前」などと略される本作もそこから出てきた人気作で、なかなか異色のドラマながら泣けると評判。この映画版も期待通りの大ヒットとなっている。
じんたん(入野自由)、めんま(茅野愛衣)ら仲良し6人組は超平和バスターズと名乗り、山の中の秘密基地で遊んでいた。ところがめんまが急死したことで、残りのメンバーの間には修復しきれぬ亀裂が入る。時は過ぎ、高校生となったじんたんはひきこもりとなっていたが、突然目の前にあの時のめんまが現れる。自分以外に見えないめんまはじんたんに、願いをかなえてほしいというが、彼にはその願いがなんなのかが思い出せないのだった。
テレビ版ストーリーの集大成に加えさらなる感動のエンディングを擁すると評判の本作。テレビ版を見ていないものにとっては謎だらけの展開となる。
なぜめんまは死んだのか、6人の関係性、だれがだれを好きで、その後どうなったのか。翻弄されながら話は進む。少年時代や現在など、時系列はあちこちに飛び回る。主人公の着るおかしなTシャツに注目してみると混乱はしない。
基本的にファンがファン同士または一人で見に行き、思う存分泣くための映画で、もともとのファン以外が本作に心を打たれて新たなファンになる、ということはあまりないだろう。時間圧縮と省略にならざるをえない総集編の要素が人間描写を不完全にしているから、ご新規さんは誰にも感情移入する暇がない。ヒロインめんまのロリロリした声の演技も非現実的に過ぎる。
もう一人の人気キャラあなるちゃんに至っては、ファストフード店で発狂したりバイト先で号泣して男にすがったりと、現実にこんなのがいたら鍵のついた病室に連れていかれること確実の飛びっぷりである。ただ、こんなギャルJKをこんなあだ名で呼んでみたいとの妄想を掻き立てられたのも、否定できない事実ではある。そのうちこちらが逮捕されるに違いない。
さて、大人だろうが子供だろうが異質な存在が入ると場が乱れるのはよくあること。外国人の血を引く美少女のめんまがバスターズに入り、男の子たちの心をわしづかみにしたことで、彼ら彼女らの間にドラマが生まれる、本作はそんな話である。小さな台風に翻弄される子供たちというわけだが、案外人の運命というのはこうした嵐によって決まるわけで、そこが共感を誘うのはよくわかる。
誰にだって、忘れられない人というのがおり(あるいはいてほしかったと熱望し)、それを投影する本作のようなドラマが、これほど多くのアニメファン(主に大人)の心をつかんだというのは、当然なようで興味深いことだ。
オタクは人間として純度が高くロマンティックというのが私の持論だが、この作品のファンはその中でももっともピュアな人たちであるのだろう。まさにオタク界の上澄み、おたく界の乳清である。逆に言えば、それくらいでないと、この映画版で泣くのは難しかろう。他人へのやさしさの価値をどう見出すか、そんな価値観と心の純粋さを試す、リトマス試験紙のような一本である。