「スター・トレック イントゥ・ダークネス」70点(100点満点中)
Star Trek Into Darkness 2013年8月23日(金)全国超拡大ロードショー! 2013年/アメリカ/カラー/132分/シネマスコープ/サラウンド:5.1ch(吹替え版)・ 7.1ch(字幕版) 配給:パラマウント ピクチャーズジャパン
監督:J.J.エイブラムス 脚本:デイモン・リンデリフ、アレックス・カーツマン、ロベルト・オーチー キャスト:クリス・パイン ザッカリー・クイント ゾーイ・サルダナ ベネディクト・カンバーバッチ ジョン・チョウ

どうせならIMAXの3Dで見たいところ

以前、渡辺謙にインタビューしたとき言っていたのだが、ハリウッド映画は邦画と違って娯楽映画にも社会的なテーマをこめるのがうまいという。私も大いに同意したものだが、この夏の超大作「スター・トレック イントゥ・ダークネス」もそうした含みを持つ一本である。

宇宙歴2259年、USSエンタープライズ号の艦長カーク(クリス・パイン)は、親友で副艦長のスポック(ザカリー・クイント)を救うため、重大な規律違反を犯してしまう。その責任をとって解任されたカークだが、帰還した地球ではさらなるテロ事件に巻き込まれるのだった。

冒頭の桜島火山からの救出アクションはアイマックスフォーマットで撮影されたということで、ひときわ高精細な3Dが楽しめる。ハリウッド作品でもなかなか見られないものなので、わざわざIMAX劇場に出向く価値が有るだろう。

このオープニングアクションは、決まりを無視してでも親友、あるいは家族というべきスポックを救おうとするカークの愛を描いているが、この構図は本作のテーマでありこのあと何度も繰り返されるので注意しておきたい。家族愛の映画は近年のトレンドだが、本作品はそれを一歩進め、家族愛というものは本当に疑いもなく常に正しいものなのか? と問いかけてくる。

これは突き詰めれば、民族単位の家族愛のため爆弾を抱えてバスに乗り込むテロリストに正義はあるのか? を問うているのであり、きわめて時代性豊かな問題提起といえる。

とくにそれを強く感じさせるのが、新たな悪役ジョン・ハリソン(ベネディクト・カンバーバッチ)の登場で、見ればわかるがこのキャラクターはきわめて異質な設定をもつ。あまり解説するとマニアたちの興味をそぐことになりかねないので難しいのだが、この悪者はもともと悪だったわけではなく、ある事情があって惑星連邦側に背を向けた人物。テロリズムをにおわす2013年の映画でこうしたキャラクターが出てくる場合、多くのアメリカ人があの男の暗喩ではないかと思うに違いない。「ゼロ・ダーク・サーティ」なんて映画も公開されたばかりなのでなおさらだ。

合理主義者で杓子定規に規律を守ろうとするスポック、その正反対のジョン、両者の間で揺れるカーク。この3人に、対テロ戦争後のアメリカ国内の揺れる価値観を暗喩して物語は進む。

ただし、こうした深読みと映画の面白さがイマイチつながっていないのはマイナス。それは各見せ場におけるわずかな違和感や、ちょっと違うんだよな、的な印象によるものだ。

冒頭の火山アクションにしても、前作の艦隊戦闘のような熱さに欠けるし(温度という意味では熱いが…)、ある種のオマージュとなっている放射能関連の見せ場も、3.11後に見ると描写の生ぬるさにしらける限り。円盤を縦にして建物の隙間を抜けるなんてスカイアクションは、もはやギャグの域だ。

CGよりもセット撮影を選んだ実感重視のアナログ手法は正解だと思うし、キャラクターの魅力も相変わらずだから平均より満足度はかなり上回る。だがマニア向けのサービスを増やした結果、ライトユーザーには少々ひっかかりが多くなり、のどごしのよさは大きく失われたパート2、といえるのではないだろうか。



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