「エンド・オブ・ウォッチ」75点(100点満点中)
End of Watch 2013年8月17日(土)、丸の内TOEIほか全国公開 2012年/アメリカ/英語/カラー/ヴィスタサイズ/デジタル5.1ch/DCP/109分/字幕翻訳:種市譲二 配給:プレシディオ 協力:松竹
監督・脚本:デヴィッド・エアー 編集:ドディ・ドーン 音楽:デヴィッド・S・サーディ テクニカル・アドバイザー:ハイメ・フィッツシモンズ キャスト:ジェイク・ギレンホール マイケル・ペーニャ アナ・ケンドリック ナタリー・マルティネス アメリカ・フェレーラ

アメリカ版警察24時

LAPD全面協力、出演者が5ヶ月間も本物警察の特訓を受けて挑んだ「エンド・オブ・ウォッチ」は、リアル警察ムービーの決定版である。

サウス・セントラルはロサンゼルスの中でも指折りの犯罪多発地区。ここで働く警察官テイラー(J・ギレンホール)とザヴァラ(M・ペーニャ)は、白人とメキシコ系という人種の違いを超えて、家族といってもいい強い絆で結ばれていた。長年の経験から図抜けた危険察知能力を持つ彼らは、どんな修羅場でも生き延びてきたが、そんな名コンビの行方に不穏な影が立ち込める。

劇映画だが、主人公が今アメリカで増えているユーチューバーなる撮影マニアということで、そうした自画撮り映像を多用したドキュメンタリータッチとなっている。不審者を負う車載カメラ映像による序盤のアクションシーンの本物感といったらなく、こりゃただ者ではないぞと観客に緊張感を強いる。

それもそのはず、この映画は二人の警官の日常のパトロール風景を描いたシンプルな話だがそこで次々起こるエピソードはほとんど実際にあったことをアレンジしたもの。さほど怪しげではない車をとめて近づいてみたら突然拳銃をぶっ放してきたりなど、同じ人類の住む国とは思えぬ展開が山盛りである。

舞台であるサウス・セントラル地区は全米屈指の危険地帯。ここの危なさに比べたら歌舞伎町を擁する新宿警察署でさえ、キッザニアで働くのと大差ないレベルだろう。

しかもこのデヴィッド・エアー監督ときたら、臨場感を出したくて実際にサウスセントラルの中で本作をロケ撮影したという。野次馬がたくさん集まってきたとうれしそうに語っているが、どう考えてもそれは野次馬ではなかったのではないかと思う。劇中のメキシカンギャングよりも、監督の頭の中のほうが恐ろしいという話である。

脚本と演出は実に的確丁寧。たとえばもっとも残虐な事件の直後に幸福の極限たる結婚式を配置することで、幸せなはずの後者が殉職フラグにしかみえなくなり、観客の不安はよけいに高まってゆく。

これは要するに、警官の家族は常にそういう気持ちでいるんだよというバーチャルリアリティを狙っているのである。この手法は何度も繰り返されており、こういうかたちで警官の生きざま、生活というものの本質を伝えたいのだなとわかる。

警察好きなら見て損のない、ただしロス市警に就職予定の方が見たらニートになること確実の、超リアル映画。一見の価値は大いにある。



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