「パシフィック・リム」75点(100点満点中)
Pacific Rim 2013年8月9日(金) 丸の内ピカデリー他 3D/2D 同時公開 2013年/日本/カラー/130分/配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:ギレルモ・デル・トロ  製作:トーマス・タル、ジョン・ジャシュニ、ギレルモ・デル・トロ、メアリー・ペアレント 製作総指揮:カラム・グリーン 原案:トラヴィス・ビーチャム 脚本:トラヴィス・ビーチャム、ギレルモ・デル・トロ キャスト チャーリー・ハナム イドリス・エルバ 菊地凛子 芦田愛菜

TPPの終焉を予言するエンターテイメント超大作

どこか日本のロボットアニメや怪獣ものを思わせるアクション作品を、最新のハリウッドクオリティによる3D映像で味わう。「パシフィック・リム」は、私たち日本人にとってじつに奇妙な娯楽作品である。

あるとき太平洋の底から現れた巨大怪獣は、人々と都市に未曽有の被害をもたらした。沿岸諸国は二足歩行の巨大ロボット「イェーガー」を開発して対抗した。当初は優勢だった人類は、しかし登場頻度を縮め、より巨大化する怪獣の前に徐々に押され始めた。無敵のイェーガーに頼れなくなった各国は、巨大な防壁の建設に着手するが……。

主人公はかつてパートナーを戦闘中に失ったイェーガーのパイロット(チャーリー・ハナム)彼はやがて決戦に備え、新たなパートナー候補(菊地凛子)を紹介されるがはたして二人は怪獣を撃退することができるのか。そんな胸躍るロボット・アクションである。

映像は重厚感があり、荒唐無稽なストーリーを笑えないほどに怪獣は恐ろしく、終末の恐怖を感じられる。日本で実写ロボットものといえば、例外なくチープな特撮映像がおまけでついてくるので、これはきわめて新鮮な映像体験といえるだろう。ロボット機内に入って人間が操縦するというのは、欧米人のロボット観からは異質に映るだろうがこれが日本スタイル。本来ロボットは人が乗るリスクを排除できるのが最大のメリットのはずだが、この手のフィクションは人が入らないと始まらない。笑えるのは、そういう「決め事」を今時はあちらの観客もよくわかっている、という点か。

各国のロボットはそれぞれ個性があるが、主役級以外は完全にかませ犬なのが寂しいところ。とくに中国代表のそれときたら、腕3本の造形も、必殺技もバカにしているとしか思えない。ロシア代表にいたっては「チェルノ・アルファ」という名前からしてひどい。チェルノとは黒いという意味の言葉だそうだが、どうしたってアレを思い出してしまう。動力が旧式の原子力というのも、もはや笑えという意味にしか思えない。メルトダウンして自滅するってか。

その点、日本代表ロボが出てこないのは作り手の良心というべきか。本来なら主人公ロボのピンチに颯爽と現れる展開を期待したいところだが、主役以外かませ犬の流れではむしろ出てこないほうがよい。その分、別の意味での見せ場が用意されている。

日本人キャストの中では芦田愛菜が全米を揺るがす絶叫演技で気を吐く。きっと次作のオファーも来るであろう熱演といえる。

このほか突っ込みどころは満載だが、単純に熱くなれるお話なので良しとする。エヴァンゲリオンの実写版はもういらない、そんな風にすら感じる一本である。

それにしても、最大の突っ込みどころ「ロボットはあきらめて壁を作ろう」には笑った。両方やれよ、という突っ込みはおいておいて、各国個別で対抗しきれず結局壁を作るというのは、TPPの失敗を暗に示していると見れなくもない。グローバル自由経済という怪獣を防ぐには、結局関税障壁に立ち返るという、これは慧眼である。「パシフィック・リム」=環太平洋地域 というタイトルも、実に意味深ではあるまいか。

……そんな深読みをして楽しむ人も、1000人に1人くらいはいて良いと思う。



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