「ABC・オブ・デス」70点(100点満点中)
The ABCs of Death 2013年7月20日(土)より新宿武蔵野館でレイトショー公開 2012年/アメリカ/カラー/123分/配給:キングレコード

死亡シーンばかり集めた悪趣味オムニバス

夏にはホラーということで、確たる合理的理由はないが夏には怖い映画を見るのが風物詩となっている。そんなわけでいくつか今年も公開されているわけだが「ABC・オブ・デス」はなかなかの異色作。なにしろアルファベットの数だけ(26人)の監督が、それぞれ死にまつわる5分間の短編を持ち寄るオムニバスというのだから突っ込みどころは満載だ。

まず、5分間という制限がいい。つまらなくてもちょいと我慢していれば次に行くので、各作家が実験的なチャレンジをするための精神的ハードルはとても低い。次の打者が強力だから凡退覚悟で思い切って振りに行こう、ってな気分で挑める。実際、普段以上にぶっとんだ映像表現に挑戦している監督ばかりで、その結果、5分に数回は見せ場を楽しめるテンポのいいオムニバスになっている。

テーマが「死」というのも、誰にでも共感できるもので正解だ。この映画に作品を持ち寄った監督は、アメリカ、フランス、日本といった映画大国をはじめ、イギリス、インドネシア、カナダ、セルビア、ベルギー、タイ、デンマーク、メキシコ、ノルウェー、オーストラリアと百花繚乱。だが、テーマがテーマなので理解しにくいものは少なく、直感的に感じ取れるものばかり。台詞がない作品もあるが、真意はちゃんと伝わる。

アルファベット順に映画は上映されるが、Aにあたる「アポカリプス」(スペインのナチョ・ピガロンド監督)から強烈。ベッドで寝たきりの男を包丁できりつける女が出てくるが、詳しいシチュエーションの説明なく攻撃シーンから始まるのでショックは大きい。明るい画面でモロに残酷な人体破壊が繰り広げられるので、いきなり退場者が出てもおかしくない。もっともそんな弱気な人がこれを見に来るはずもないが。

なにしろ短距離5分間の全力疾走だから、手加減がない。各監督の本気の勝負を受けとめなくてはならず、これは見ごたえがある。

みてみると、残酷志向、不条理志向、アート志向、どんでん返しと、それぞれ個性はあるが、映像にこだわる人がとくに多い。ストップモーションアニメも、普通のアニメもあるし、エロもあり、ただただ気持ち悪いだけのものもある。いろんな死にざまを楽しめる。それが楽しいのかどうかは知らないが。

私のおすすめはLの「リビドー」と、Qの「アヒル」、Xの「ダブルエックスエル」。日本の監督も健闘し、個性を見せているがさて、皆さんの好みの「死」はどれだろう。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.