「アンコール!!」75点(100点満点中)
Song for Marion 2013年6月28日(金)よりTOHOシネマズシャンテにて、7月5日(金)より全国公開 2012年イギリス/カラー/94分/スコープサイズ/ドルビーデジタル/日本語字幕:加藤リツ子 提供:アスミック・エース/WOWOW 配給:アスミック・エース
脚本・監督:ポール・アンドリュー・ウィリアムズ 主題歌:セリーヌ・ディオン『タイタニック』 キャスト:テレンス・スタンプ ヴァネッサ・レッドグレイヴ ジェマ・アータートン クリストファー・エクルストン
ベテラン監督かと思うような的確な演出
老人映画であり合唱映画である本作は、監督の演出が的確で過剰なお涙ちょうだいがないため素直に感情移入しやすい。
舞台はロンドン。自他ともに認める頑固ジジイのアーサー(テレンス・スタンプ)は、しかし対照的に社交的な妻のマリオン(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)を愛していた。老人合唱団で活躍する彼女を素直に認めることはできなかったが、妻のガンの再発を機に、いやおうなしに価値観の見直しを迫られることになる。
頑固な老人てのは映画の中ではいじりやすいキャラで、本作でも多くのユーモラスな場面に寄与している。合唱サークルでエロ歌詞の歌を歌っているのをみたり、それを若くて美人な音楽教師が提案することに嘆く様子など、それだけで笑いを誘う。
映画が始まると、あっという間にコンサート本番がやってくるテンポの良さもいい。この屋外コンサートの場面が何とも感動的で、たくさん笑わせたあとにいよいよ本番の見せ場がやってくるが、そのギャップに思わず泣けてくる。
ここで映画を終わりにしてもいいくらいだと思わせるが、ストーリー上の本番はこれから。このジジイがこの感動的な合唱でなにを得て、どう変わりなにをするのか。そこが本題である。
女教師との確執を描く流れからは、人がわかりあうためにはなにをする必要があるのかを学ばされる。劇中の重要な歌「トゥルーカラー」の歌詞でもそれは示唆される。
平安時代でいうなら返歌のごとき意味合いを持つ最後の舞台も胸を打つ。決して奇跡は起きないが、十二分な幸福の見返りがその後に待っている。すべてにおいてやりすぎない。これで十分だと思わせるその謙虚さが、うまく共感を誘うのである。