「奇跡のリンゴ」70点(100点満点中)
2013年/日本/カラー/129分/配給:東宝
原作:石川拓治 監督:中村義洋 脚本:吉田智子 音楽:久石譲 キャスト:阿部サダヲ 菅野美穂 山崎努 原田美枝子 池内博之
モンサント社員と安倍晋三はこれを100回見ろ
中村義洋というのは近年とくに人気のある監督だが、その多作ぶりからすると相当忙しいのではないかと想像する。そしておそらくその多忙さが、いつも肝心な部分の詰めの甘さとなって作品に出ているようで私は毎度悔しい思いをしている。「奇跡のリンゴ」も、日本映画の平均よりははるかに上回るものの、もう何か月かかけて脚本と演出を詰めておけば相当な傑作になれたであろう一本である。
1970年代の青森。リンゴ農家の一人娘(菅野美穂)と結婚した秋則(阿部サダヲ)だが、あるとき最愛の妻が農薬被害に悩まされていることを知り、リンゴの無農薬栽培を決意する。だがそれは「神の領域」として、他の農家全員が必死に止めるほどの難関であった。それでも笑顔で進み始めた秋則だが、それが想像を絶する苦難への道だということを、その時は何一つわかってはいなかった。
石川拓治原作のノンフィクションを基にした感動ドラマで、日本農家の職人気質と生真面目さを表す象徴的なエピソードがつづられている。アベノミクスが嬉々として進めるTPP政策で農業壊滅といわれる今、なかなかタイムリーな企画である。
リンゴに限らず果物というのは、無農薬栽培が極めて難しい。まして品種改良を重ねた甘い甘い最近のそれは、害獣害虫にとってもたまらないごちそうだ。この映画は、そんな無理難題に徒手空拳で立ち向かった男と、彼を命がけで支えた妻ら家族の物語である。
当初は都会でのサラリーマン経験を生かした革新的な方法で何とかなるだろうと気楽に始めた主人公だが、恐るべき高い壁にやがてその勢いを完全に止められてしまう。好奇心から入り込んだ道は地獄への道だった。何をやっても裏目、頼みのカネがすり減ってゆくとともに、演じる阿部サダヲの笑顔も消えてゆく。有機農業は全農家の2%しか行っていないといわれ、変わり者としてコミュニティから孤立するパターンも多いと聞くが、まさに彼らもその道をたどる。冗談抜きで恐ろしい展開である。
こうした序盤から中盤は腰の重い演出で、傑作の予感を感じさせたが、終盤でやや失速した。とくにリンゴ収穫後の話はナレーションかテロップでも済む話で、延々と続ける意味は少ない。どこをラストにすれば効果的に伝えたいことを伝えられるのか。もう少し考えて構成したらさらによくなっただろう。事実をくまなく伝えることが必ずしもいいわけではない。
それでもこれは、邦画としてはかなりいい部類に入る。日本の農家たちの苦労もよく描けている。食料を作るということが、いかに大変な苦労を伴う仕事かということもわかる。農家への感謝の気持ちも湧いてくるし、自他ともに認めるりんご嫌いな私でも、この映画を見ると思わず食べたくなる。
まとめとして、モンサント社員と安倍晋三はこれを自腹で100回見にいけと、ここに命じておく。