「華麗なるギャツビー」75点(100点満点中)
The Great Gatsby 2013年6月14日(金)丸の内ピカデリー他 3D/2D 全国ロードショー 2013年/アメリカ/カラー/142分/配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:バズ・ラーマン キャスト:レオナルド・ディカプリオ トビー・マグワイア ジョエル・デドガートン キャリー・マリガン アイラ・フィッシャー ジェイソン・クラーク
純粋な人間はしばしば孤独を味わう
F・スコット・フィッツジェラルドの原作は何度も映画化されているが、「ムーラン・ルージュ」(2001)のバズ・ラーマン監督による3D作品として世に出されるこの2012年版は、豪華絢爛な主人公ギャツビーの表側、その一面を見せるという意味では決定版と言えるだろう。
1922年、中西部から憧れの都会NYに出てきた作家志望のニック(トビー・マグワイア)は、隣家の大富豪ジェイ・ギャツビー(レオナルド・ディカプリオ)になぜか気に入られ、毎夜開かれる評判のパーティーに招かれる。その圧倒的なゴージャスぶりと、誰一人経歴を知らぬ謎めいたジェイに興味を持つニックだったが、やがて彼が知るその物語は、にわかには信じがたいものであった。
いったいギャツビーとはだれなのか、その登場シーンからしてしゃれている。ほとんどギャグかと思うようなレオナルド・ディカプリオ満面のスマイルから始まるその物語は、最近流行の禁酒法時代を舞台にした純愛物語だ。
狂言回しとなるニック役にはレオ様の親友でもあるトビー・マグワイア。都会に憧れ中西部から出てきたこの男は、原作者フィッツジェラルドの投影ともいえるキャラクター。と同時にギャツビーもまた、浪費家の妻と贅沢の限りを尽くしたこの大作家自身といえるかもしれない。
映画としての見どころは単純明快で、時代考証を素っ飛ばしたパーティーシーンのダンスや音楽、ブルックス・ブラザースによる男性陣のクラシックで美しい衣装(……なのだが、一部サイジングがおかしなものがあった点は気になった)。疾走するクラシックカー、そして当時の街並みといったところ。たぶんに3Dを意識した演出になっているから、余裕のある人はメガネをかける映画館に出向いてもいいだろう。
142分間と長尺だが、ギャツビーのパーティー開催目的の謎、本人が語るめくるめく経歴と回想シーン、そして探し求める恋人との行方が矢継ぎ早に展開するので意外とサラリとみることができる。何より主演のレオナルド・ディカプリオには「華」があり、これだけの尺の歴史ものを退屈させずに引っ張ることができる。終盤、あるスリリングなやり取りのあとにキレる演技は相当なものだ。そんな彼を「年を取りすぎている」とフったどこかのスーパーモデルがいたそうだが、神をも恐れぬ所業といえる。
さて、表面的には純愛物語だが、それにしてもこの長大な物語の語ろうとすることは何なのか。なぜ2013年の今、わざわざ使い古した原作を再映画化しなくてはならなかったのか。
それを考えるのがお客さん側の楽しみでもあるのだが、そんな面倒くさいことはしたくない人のために多少解説すると、要するにこの物語は対立する二つの価値観の間で葛藤する人間の物語、なのである。
ニックを起点に考えるとよくわかるが、彼は田舎町の道徳的価値観と、都会暮らしの退廃的生活の間で悩んでいた。後者の代表がまさにギャツビーだと彼は最初、思うわけだが、果たしてそうなのか。
ギャツビーは確かに一見どうしようもない浪費家の遊び人だ。さらにその金の出所たるや、決してほめられた筋ではない。だがそれが彼の本質か?
その答えと、成長したニックがラストにどちらの価値観を称えるか。そこが本作最大のテーマであり見どころといえる。具体的にはニックが最後にギャツビーにかけたセリフ、そこに注目してほしい。
で、そのテーマがわかれば2013年の今、これをアメリカ人に見せたがる企画者の意図も理解できよう。この映画の舞台設定は、その後まもなく大不況に陥る直前のアメリカ。ここでこれでもかと描かれる金持ちどもの、ひどいありさま。
それはそのまま、本日も平常運転中のアメリカ合衆国のお金持ち層、彼らに対する警告でありメッセージとなっていると、まあそういうわけなのである。