「キャビン」90点(100点満点中)
The Cabin in the Woods 2013年3月9日(土)シネマサンシャイン池袋 他全国ロードショー 2011年/アメリカ/カラー/95分/配給:クロックワークス
監督:ドリュー・ゴッダード 脚本:ジョス・ウェドン、ドリュー・ゴダード キャスト:クリステン・コノリー クリス・ヘムズワース アナ・ハッチンソン フラン・クランツ ジェシー・ウィリアムズ

独創性がある

世間一般には疑問符が付くようなタイプの人間でも意外とモテたりする。気が多い女の子とか、金遣いの荒い男とか、第三者からみればクズのような性格でも「普通」に飽いてる者にとっては適度な刺激になるためだ。適材適所、捨てる神あれば拾う神ありだ。

「キャビン」は、どこからみても異形な映画。変化球のみで構成されたトンデモ作だが、だからこそ「普通」に飽きてる人には最高の刺激となる。その魅力は、あらゆるホラー映画を見てきた人でも、絶対に先読みできないハチャメチャな展開。しかしナンセンス系ではなく破綻なく世界観をまとめている「定石外し系」の傑作である。

森の中の小屋にやってきたデイナ(クリステン・コノリー)たち大学生の男女5人。人里離れたこの場所で、胸躍る休日を過ごす予定だったが、この小屋は何かがおかしい。隣の部屋を覗けるマジックミラーがあったり、古い地下室があったり。やがて彼らは、不安を抱えながらも初めての夜を迎える。

へんぴな山小屋にイケてる男女が集まってムフフな休日を過ごしていると、身の毛もよだつ運命がやってくる。

ホラー映画なんてものは大抵モテない(元)映画オタクが作っているので、9割くらいはイケメン受難のこんなストーリーである。それをこれまた映画オタクが見て拍手喝采という、痛々しい構図が基本となる。

……が、そんな定型にこそ、つけいる隙がある。たとえば生き残るのは大抵オタクキャラなのでそいつを真っ先にぶち殺すとか、あるいはヒロインを序盤で殺すとか、そのあたりは基本的な定石外し(そういういい方は矛盾だが)といえる。某ミステリ作家のホラー小説などでは、最初に殺されるのはかわいい赤ちゃん。そうやって「この話は常識が通じない、何でもアリだぜ」と宣言するのである。観客の安全地帯を最初に奪うことで、スリルを盛り上げていく。

だが「キャビン」はそうした定番の手法とも少々異なる。あまり詳しく言うと興味をそぐので慎重に行くが、映画ジャンルの大前提をかきまぜることで観客を混乱させたり、ある程度類似品を見ている観客にはその先入観を利用したりして振り回す。

これは大変楽しい映画体験である。必ずしもマニアである必要はないが、ある程度「ハリウッド映画のパターン」を認識しているくらいの人がみてこそ、面白さがわかるだろう。極端な話、これが生まれて初めて見るホラー映画だったとしたら、たんなるまとまりの悪い作品、で終わってしまう。それではもったいない。

こうした定石外しに騙されまくる快感に隠れているが、意外なほどまっとうなテーマも存在する。

それは、観客が自然と応援してしまうキャラクターとその終盤の選択によって提示される。どうしたってあの人に共感してしまうのが普通だが、あとでゆっくり考えてみるとそんな自分が恐ろしくエゴイストだったことに気づくはずだ。人間とは、怒りとイライラが極限に達すると、とんでもない過ちをおかすものなのだと、本作の登場人物たちが身を持って教えてくれる。

黒幕たちのやってる事にいまいち必然性というか明確なルールがないように思えるのがマイナスだが、それでも「キャビン」は年間何本もない、独創性ゆたかな作品である。普通と違ったことをやってやろう、世間の度肝を抜いてやろうという作り手の意欲が感じられるし、前述したようにしっかりとした主張もある。決して奇をてらっただけではない、しっかりとした映画作品になっているという点で、私は高く評価する。

最近はブログやSNSが普及し、映画紹介文の技術を知らぬ書き手たちの善意なるネタバレがそこかしこでみられる時代である。こうした作品は、期せずしてそうしたものを目にする前に初日に出かけることをお勧めしておく。



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