「横道世之介」55点(100点満点中)
2013年2月23日、全国ロードショー 2013年/日本/カラー/160分/配給:ショウゲート 原作:吉田修一 監督・脚本:沖田修一 脚本:前田司郎 キャスト:高良健吾 吉高由里子 池松壮亮 伊藤歩 綾野剛 井浦新
青春小説は映画化が難しい
意外と映画にすると難しいのが青春小説で、『パレード』『悪人』の原作者・吉田修一による「横道世之介」を映画化した本作もその一つ。平均以上の出来栄えなのに、どこかもやっとした印象なのはなぜなのか。
横道世之介(高良健吾)は、東京の大学に通うべく生まれ故郷の長崎県から上京してきた。素朴で純粋で、憎めない魅力のある彼の周りには多くの個性的な人物が集まってきた。お嬢様なのに貧乏金なしの世之介にべったりな祥子(吉高由里子)もその一人だが、彼には彼で片思いの年上女性がおり、二人の恋はあきれるほどに進展しないのだった。
若者の日常を描くこの手の小説は、作中のあちこちに共感を覚えながら読者の脳内で心地よい世界観として最終的に仕上げていくのが魅力である。だから映画のように、最初から完成品をビジュアルとしてバーンと目の前に出されてしまうと、どこか戸惑ってしまう。
これは未読者についても同じで、想像力と自分の体験を組み込む余地がない映画ジャンルの場合、作品に共感を集めるのは容易ではない。
とくに横道世之介というキャラクターは、だれの周りにもいたよね的な人物ではないし、かといって個性が突き抜けているわけでもない。各エピソードも「あるある」と納得できるようなものでもない。コメディ部分はくすっと程度は笑えるがオフビート的で、それほど切れているわけでもない。こうなると、作品世界に入り込むのが難しくなってくる。
それをカバーする定番技術として、上映時間を延ばして作品世界に長く滞在させるというものもあるが、本作の場合は逆効果。必然性がないと、160分もの上映時間はかなりきつい。
それよりも、中盤に用意されるどんでん返しへの布石、すなわち未来時点における各人物たちの挙動をもっと謎めかして挿入し、興味を引っ張るといった、ミステリ的趣向に力を入れたほうがよかった。
大学時代の蜜月ぶりと、もっと激しくギャップを持たせなたらば、この構成は面白くなっただろう。その上で、人と人のつながり、愛情といったメインテーマを謳う形に持っていくとなお感動が高まる。
高良健吾と吉高由里子は「蛇にピアス」以来の共演だが、まったく違った雰囲気でも息はぴったりで、バーガーショップでのデートシーンは美術スタッフの頑張りもあって本作の白眉である。お嬢様を漫画チックに演じる吉高由里子は、ちょっと芝居がかってはいるがじつに可愛らしく、心に残るヒロインとなった。
それにしても、どこにも破たんはないのに傑作のレベルにまでは届かない。まったくもって難しいジャンルである。