「ジャッジ・ドレッド」80点(100点満点中)
Dredd 3D 2013年2月16日(土)、渋谷TOEI、新宿ミラノ2他全国ロードショー 2012年/イギリス、南アフリカ/95分/カラー/シネマスコープ/ドルビーデジタル/R15+/字幕翻訳:岡田壯平 配給:ブロードメディア・スタジオ
監督:ピート・トラヴィス 脚本:アレックス・ガーランド キャラクター創造:ジョン・ワグナー、カルロス・エズキエラ 出演:カール・アーバン オリヴィア・サールビー ジェイソン・コープ ラングレイ・カークウッド ルーク・テイラー

ハードボイルドなヒーロー映画

ヒーロー不在の時代である。世界の警察官は日がなプロパガンダ映画作りに必死、日本の警察官は交番で賭け麻雀に必死。新聞を見ていてもしらけるばかりである。

ヒーロー映画作りがこんなに難しい時代もないわけだが「ジャッジ・ドレッド」は頑張った。シルベスター・スタローン主演の珍作扱いされていた95年版を無かったことに再スタートした本作は、由緒ある英国コミックの実写化。イギリス・南アフリカ合作の、決して背伸びしないシンプルなアクション3D映画としてよみがえった。

近未来のアメリカ。核戦争で荒廃した東海岸における唯一の都市メガシティ・ワンは、人口過密で治安は最悪であった。その対策として市民を守る最後の砦であるジャッジたちには、警察と司法の両方の機能と権限が与えられていた。中でも最強のジャッジと称されるドレッド(カール・アーバン)は、新米の女性ジャッジ、アンダーソン(オリヴィア・サールビー)の教育を命じられる。さっそく出かけた現場は、しかし想像を絶する過酷なものだった。

じつにユニークな世界観である。それぞれのジャッジには逮捕権とその場での判決言い渡し、刑の執行権という絶大な権力と、さまざまな弾丸を発射できる専用の銃が与えられている。悪人をとっ捕まえて「お前死刑ね」とその場でぶち殺す。IPアドレス偽装に騙され冤罪を連発するどこかの国の警官にはとても任せられない、斬新な問題解決法である。

さてこの男女ジャッジは、やがてレナ・ヘディ演じる悪の女ボスが支配するスラムな高層ビルに閉じ込められてしまう。なんと住人7万5千人が全部敵、次々わいてくるヒャッハーな無法者たちを、問答無用でぶち殺しながら最上階のボスを目指すという、ファミコンゲームの「スパルタンX」そのものというべき超シンプルストーリーだ。中庭をかこむビルのデザイン、建物全体がスラム化というあたりから、ヨハネスブルグの悪名高いポンテシティアパートがモデルと思われるが、この映画も南ア製作とあって妙にリアルな世界観である。

舞台が閉ざされた建物の中だけ、圧倒的大差の敵を前に逃げ道なし、とにかくぶち殺すほかないという、絶体絶命・正面突破オンリーというわかりやすさは、同時に演出側にも逃げ場がない。つまりは観客と監督のガチンコ勝負だが、キャラクターの魅力とスローモーションの多用、残虐描写も避けぬ勇気とけれんみある3Dで乗り切った。

とくに主人公ドレッドの、あまりの頼もしさはこれぞヒーロー映画。あんな恐ろしい状況になったら、われわれ素人ならば敵が出てくる前に発狂しておしまいだ。だいたい数万人相手に拳銃一丁でどう戦うというのか。

なのにドレッドときたらビビるどころか冷静沈着で、戦闘意欲も満々。一片たりともぶれることはない。たとえ弾をくらっても、彼なら心は折れまい。これぞ男があこがれる男、といったところだ。

顔傷熟女と金髪サイキック美少女のダブルヒロインもゴージャスで、まさに男が楽しめる娯楽映画。悪にはこれくらいの男でなければ立ち向かえない。ハードボイルドかつストイックな本格アクション映画として、今週はこれをイチオシとしたい。



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